第23話 討伐
ゴブリンを発見した俺たちは、離れたまま観察していた。
ゴブリンもこちらを見ていたが、すぐに襲い掛かってくることはなかった。
今、ゴブリンが一体で行動しているのもあるかもしれない。
ゴブリンは油断なくこちらを睨んだままだ。
「レリウス……先に一度、一人で戦ってみてくれないか?」
「一人で、ですか?」
「ああ。キミの戦い方は正直想像がつかないんだ。私は所詮、この剣で敵を斬るしかないが、キミは中距離で戦うのだろう?」
「はい」
「それが、想像できないんだ。見せてもらえないだろうか。私も……前のままでもゴブリン程度なら勝てる。もしものときは助けよう」
「わかりました」
少し緊張するな。
メアさんは、冒険者としての活動期間が長い。
俺の戦い方に色々と文句が出てくるかもしれない。
せめて、足手まといと思われないようにしようと思う。
俺がゴブリンの方に近づくと、ゴブリンも戦闘は避けられないと思ったようだ。
持っていた棍棒を振り上げる。
それは威嚇だ。
俺は問答無用でゴブリンにナイフを投げつけた。
ゴブリンはそれをかわす。そこまでは想定していた。
だから、ボーンショットによって攻撃する。短剣から放たれたスキルが、ゴブリンを襲う。
ゴブリンはそれもかわす。
だが、不利な体勢になった。
そこへナイフを投擲する。掠ったナイフ自体のダメージはさしてない。
ゴブリンもナイフを見てはいたが、余裕そうな笑顔だ。
果たして、本当にそうだろうか?
ゴブリンがこちらへとダッシュしてくる。
近接での戦闘に切り替えるため、剣を抜く。
ゴブリンの攻撃を捌いていく。
筋力強化スキルもあるため、ゴブリンの攻撃を捌くのは造作もない。
ただ、今は毒攻撃の効果を知ってほしいこともあり、俺が直接手を下すことはしない。
ゴブリンが倒れたのはそれから一分ほどしてだった。
突然血を吐き、そのまま倒れる。
虫の息であるのはわかったので、俺はゴブリンにとどめをさした。
「こんな感じです」
倒したゴブリンを見せるようにメアさんの方を見る。
彼女は目を見開いていた。
……やっぱり、戦い方に問題があったのだろうか。
「な、なにをしたんだ!?」
メアさんが声をあらげ、こちらを見てきた。
どうしたのだろうか? 俺が首を傾げていると、メアさんが近づいてくる。
「どうしたんですか?」
「な、なぜゴブリンが倒れたんだ? 一撃も与えていなかっただろう!」
「最初に一度攻撃しました。ナイフが掠りましたよね」
俺がゴブリンの傷口を示すと、メアさんがじっとそちらを見ていた。
「それがダメージになっているのか!?」
「はい。毒攻撃です。俺のナイフには毒がありますので……」
「ど、毒だと!? し、しかし魔物相手に通用する毒なんてなかなかないはずだが……」
「そうなんですか?」
「あ、ああ。確か、毒攻撃を持った神器はハズレだったはずだ。魔物は状態異常に耐性を持つものが多いからな」
「……そうなんですか」
もしかしたら、相手の毒耐性よりもランクが高ければ、突破できるのかもしれない。
「ああ。毒次第ではあるが、拷問などに使えないこともないから、まったくハズレではないが……少なくともそこまでの需要はないな」
自分の神器ならば、付与されているスキルを知ることができる。
それを用いて、昔は詐欺もあったとか。
他人のスキルは見えない。
だから、必要以上に強いスキルを言って、相手を脅すとかな。
「とにかく、魔物を殺せるほどの毒など見たことがない! そのナイフ、恐ろしいな……!」
「なるほど……まあ、俺の戦い方はこんな感じですね。どうでしたか?」
俺の言葉に、メアさんは腕を組んで頷いた。
「……文句のつけようがないな。下手したら私よりもずっと強いと思うぞ」
「そんなことありませんよ。俺は神器が死んでいるんですよ?」
「だとしても、だ。身のこなしはそこらの神器持ちよりもずっとよかったぞ」
そうなのだろうか。
まあ、多分半分以上メアさんのお世辞だと思う。
「次はメアさんの戦いを見せてもらえませんか? 装備を変えてからですし、動きも変わっているはずですよ」
「……そうだったら良いのだがな。仮に、これまでよりも動ければ、キミのおかげということになるな」
動けてくれればいいのだが。
ただ、以前の装備をつけていたときとは顔色が違うし、大丈夫だと思うが。
メアさんと共に歩き、次のゴブリンを見つける。
ゴブリンは二体だ。
まだ動けるかどうかわからないというメアさんのかわりに、一体を引き受けることにした。
今度はメアさんの戦いを見ていたいので、ゴブリンは一瞬で片付けることにした。
少し、実験したいこともあったので、ちょっとだけ試す。
迫ってきたゴブリンの棍棒を捌き、ナイフを突き刺す。
そのナイフには、筋力減少など、メアさんの装備から手に入った弱体スキルが付与されている。
ナイフが突き刺さっているってことは、装備しているってことと同じでいいよな?
刺してから十秒ほどが経ったところで、ゴブリンの動きは明らかに遅くなっていた。
反対に俺の体は軽くなる。……やはり、減少効果のついた装備は、身に着けたくないものだ。
動きが遅くなったゴブリンの首を跳ね飛ばし、メアさんを見る。
メアさんはゴブリンと今まさに向き合っていた。
メアさんとゴブリンはそろって驚いたようにこちらを見ていた。
「メアさん、気を付けてくださいね」
「あ、ああ!」
メアさんが声をあげ、ゴブリンと向き合う。
仲間をやられたからか、ゴブリンが声を荒げて飛びかかる。
メアさんがその一撃をかわした。
メアさんは……かわしすぎたのか、ゴブリンから随分と離れていた。
メアさんは驚いたように自分の体を見ていた。
……どうしたんだ? やっぱりまだ、呪いの効果が残ってしまっていたのだろうか。
装備品に問題はない。
なら他に何が――。
俺が考えていると、メアさんは地面を蹴った。
一瞬でゴブリンとの距離を詰め、剣を振り下ろした。
ゴブリンを斬った跡を、火が焼き、ゴブリンは一瞬で死んだ。
呪いが残った状況でもなお、メアさんはあれほどに動けるのか。
というか、これでEランク冒険者なのか? ……やっぱり、俺に冒険者は難しそうだな。
神器持ちとそれ以外で、格差がひどすぎる。
「……メアさん、さすがですね」
俺が拍手をしながらメアさんに近づくと、メアさんは目を輝かせ俺のほうに飛びついてきた。
な、なんだ!? お、おっぱいが!
「ありがとうレリウス!」
「な、何がですか!?」
「キミのおかげで、今まで通りに……いや、今まで以上に戦えるようになったんだ!」
「え、そうなんですか」
途中、違和感を感じているようだったんだけど……本当だろうか。
「ああ! キミに作ってもらったこの装備、凄いな! 体が羽のように軽いんだ! 戦闘が始まるまで信じられなかったが――先ほどあれだけの動きができたのはキミのおかげだ! ありがとう! 本当にありがとう!」
嬉しそうに涙を流して喜んでいるメアさん。
……いや、もともとメアさんにはこれだけの力があったんだろう。
俺はあくまできっかけでしかないはずだ。
「そう、ですか。少しでも力になれたのなら良かったです」
「少しじゃない最高だ!」
メアさんがぎゅっと抱き着いてくる。
……優しい人だな、と思っておいた。






