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不遇職『鍛冶師』だけど最強です ~気づけば何でも作れるようになっていた男ののんびりスローライフ~  作者: 木嶋隆太


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第2話 宿屋


 周囲は沸き立ち、教会の関係者たちが慌ただしく走り回っている。

 これらすべてが、リンのために動いているのだと思うと、なんとも言えない感情が湧き上がった。


 俺たちは今、教会の客室に案内されていた。

 俺たち、というよりはリンがだな。

 

 部屋には教会騎士もいる。俺たちに話しかけることはないが、見張りのようにそこにいた。

 いつもは余裕のあるリンだったが、さすがにこの状況に不安を感じているようだ。

 俺の手をぎゅっと握っている。それも震えている。


「れ、レリウス……どうしよう……。私……これからどうなるのかな?」

「……騎士か冒険者の道を勧められるんじゃないか?」


 少なくとも、俺の考えていた神託のその後はそうだった。

 騎士学校に誘われるほどの有名な能力を手に入れたら、そのままそれを受けるつもりで。


 ダメだったら、冒険者として稼ごうと考えていた。

 リンは……そもそも、宿屋を継ぐつもりだった。こんな展開なんて、考えてもいなかったんだろう。


「……私、どっちもやりたくないなぁ。戦うのとか、なんだか怖いし」

「……」


 できるのなら俺と交換してほしいくらいだ。

 けど、そんなことはできない。

 羨ましいな、と思ってもリンにとってはそうじゃない。


 俺もなんて声をかければいいのか分からなかった。

 しばらくして、部屋の扉が開いた。

 息を切らしながらやってきたのは、豪華な衣装に身を包んだ人だ。


「わ、私はこの教会を管理する司教なのだが……き、キミが神の寵愛を受けた勇者のリン様で間違いないですか!?」


 想像以上に興奮している司教だ。 

 彼はリンの前に立ち、鼻息荒くこちらを見ていた。


「は、はい……そう、なんですが……」

「素晴らしいですね! あなたのことは国にも報告を入れてあります! あなたほどの才能を持つ方ならば、間違いなく勇者として教会を、国を邪神の遣いである魔物たちから守り抜くことができるでしょう!」

「け、けど……私はその――」


 魔物と戦う。今までリンはそんな経験はまったくなかった。

 だからこそ、その言葉に怯えてしまっていた。

 司教は元気のないリンを不思議そうに見ていた。


「なぜ、そんなに悲しそうな顔をしているんだい?」

「……私、勇者として戦わないとダメ、ですか?」


 リンの言葉に、司教が眉根を寄せた。


「もちろんです。神様はあなたにその才能があると判断して、その職業を与えたのですから」

「……で、ですけど、私。ごく普通の人で――」

「神様から与えられるこの職業や神器は、その人にとってこの世界で生きる役割です。その役割を全うすることこそが、力を与えてくださった神様への感謝を示すことになります。……キミは、勇者として任命されました。世界に蔓延る魔物を払う、勇者に!」


 司祭は興奮した様子でそういったが、リンは逆に怯えてしまったようだ。

 ……日頃から神に感謝している彼らとは違い、俺たちはそこまで神様を信じているわけではなかった。

 その温度差がこれだ。


「すみません。まだ、そのリンは……驚いているみたいで。だから、その今後どうするか、考える時間をくれませんか? 俺たちの家は、『渡り鳥の宿屋』ですから。両親にも早く報告したいので……その、また後日、返事のほうをさせてもらうというのは、できますか?」


 俺が控えめに手をあげて司教に伝える。

 と、司教は初めてそこで俺に気付いたようだ。


「……そうですね。いやいや、申し訳ない。確かに、ご両親にも一度挨拶をしておいたほうがいいですね。『渡り鳥の宿屋』、ですね。わかりました。また後日に伺いましょう。……あっ、その前に一ついいですか?」


 司教が嬉しそうに頬を緩める。

 リンがその笑顔にびくりと肩をあげた。


「な、何でしょうか?」

「サイン、もらってもいいですか!」


 司教が目を輝かせ、リンにそう言った。

 




 リンが慣れない様子でサインを書いたあと、教会を離れた。

 二人並んで街を歩いていたが、街は普段とはまったく違う様子だった。

 

「おいおい、なんでも勇者が出たらしいぜ!」

「おまけに神器は、かの有名な騎士団長、アーサー様が授かったエクスカリバーみたいだぞ!」


 街を歩いていると、そんな話題で持ち切りだった。

 その言葉が耳に入るたび、リンは怯えた様子で視線を下げていた。


「……どうしよう、レリウス」

「……どうしようって、どうしよう」


 正直いって、どうすればいいのか分からない。

 とにかくあの場にいたらダメだと思って、こうして抜け出してきたけど、どうすればいいのか分からなかった。

 家についたところで、リンの父と母がこちらに気付いた。

 一階の食堂には、すでにたくさんの冒険者がいた。


「おう、二人ともお帰り。遅かった……リン? どうした?」


 キッチンに立っていた義父がきょとんとした目でこちらを見てきた。


「……お、とうさん」

「リン? ……すまん、ちょっとまかせるな」


 もう一人の料理人に声をかけてから義父がやってきた。


「……ちょっと、ここだと話しにくいから」


 俺がそういうと、義父はこくりと頷いて階段を見た。

 俺たちの部屋は宿の一室……二階にあった。


 俺の部屋まで入ったが、未だリンは不安そうに俺の手を握っていた。

 中々切り出せないリンを見て、義父がこちらを見てきた。


「……何があったんだレリウス」

「それが――」


 俺が教会であったことをすべて義父に伝える。

 ……勇者や神器のことを話すと、義父の表情は険しくなっていった。



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