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第17話 複製品



 クルアさんの反応に俺は首を傾げるしかなかった。


「……何かおかしいんですか?」

「おかしいですよ! な、なんで素材を用意しただけで家具が作れるんですか?ありえませんよ!」


 ……そうなのか?

 ほかの職人がどのようにして家具を作っているのかなんて見たことがなかったので知らなかった。

 未だに驚いているクルアさんに、もう一つ、確認しておきたかった。


「それじゃあ、ある程度レベルが上がれば魔力のみで物を作れるっていうのはどうなんですか?」

「……つ、作れるんですか? そ、素材も必要なしに……ですか?」

「まあ……できなくはないですけど」

「……」


 クルアさんが口をあんぐりとあけて俺をじっと見ていた。


「……や、やってみてもらってもいいですか?」

「はい。ただ、ハンマーで壊したものしか基本的には作れませんから、そこだけは承知してください」


 最近わかったのは、俺は所詮『鍛冶師』ということなんだと思う。

 だから、いわゆる武器以外は、一から作製というのができないんだ。


「それだけでも凄すぎるんですけど」


 ……俺からすれば、オリジナルの物を作っている人たちのほうが凄いと思うが。

 俺は部屋にあったものを作製する。

 じっと見ていたクルアさんがそれから俺へと視線を向けてきた。


「……本当になんでも作れてしまうのですね」

「ええまあ。あくまで完成品を一度壊すことで、ですけどね」

「十分すぎるんですよ! これなら量産が得意ということになりますね。おまけに、一つ一つ寸分たがわず――それに、この椅子はオリジナルよりも良い出来ですね」


 クルアさんはすっと椅子に手を伸ばし、観察している。


「オリジナルっていうが……ここにあるのはすでに俺が手を加えたものなんですけど」

「あー、いえ。違うんです。私、この宿の家具を作製した人を調べて、会っているんです」

「そうだったんですか」

「はい。ただ……まー、その。ちょっと違うなと思いまして」


 クルアさんは言葉を濁してそういった。

 ……確かに元々あった椅子はEランク相当のものだった。

 今現在この部屋にあるのはSランクだ。その差は大きいのかもしれない。


 かもしれない、というのは……俺に目利きの才能はないからだ。

 実際座ってみても、そこまで大きな違いまでは分からない。


 言われれば気づくかな、程度だ。

 だから、この目を手に入れられたのはある意味運がよかった。


 同時に、クルアさんの目がしっかりとしているのだというのもわかった。

 さすが商人だ。


「オリジナルを作製するのはできないといいましたよね?」

「はい、ですので……貴族の方が求めるものを作製するのはできませんね」

「いえ……むしろ、私としては複製が得意の方が可能性があるのではないかと思いました」

「……どういうことですか?」

「現在、家具や小物に関しては一般市民にまで行き届く程に、値段は上から下まで様々です。できる限り安く良い物をというのを基本としていますが、今現在中々それができる職人と商人のペアはいません。というのも、職人は人ですので……まあ、同じものを作製し続けるというのはなかなか苦しい部分もありますからね」

「そこに、俺が踏み込むということですか?」

「はい。もちろん、ずっと量産し続けてくれというつもりはありません。いずれ、オリジナルの物が作れるようになれば、それを作製していただいても構いません」


 なるほどな。

 ある程度の自由も利く、ということだろう。


「商人と職人が手を組んだ場合、金銭のやり取りはどうなるんですか?」

「職人の方に、7割入り、我々商人が3割というのが基本になっています。ただ、例えば素材が必要など特殊な理由が入った場合は、お互いの分配が変わってきますね」

「……」


 つまり、俺は熟練度を上げるために作製した物がそのままお金になるということか。


「どのくらい拘束されることになるんでしょうか? 俺はあくまで、この宿で仕事をしていますから」


 俺が勤務に入れないと、宿が回らない可能性がある。

 少なくとも、今いる新人の子が育ち、さらにもう一人くらい入らないと難しいだろう。

 両親に迷惑をかけたくないので、そちらが優先だ。


「そうですね……まだ確定していませんが、私は倉庫を持っています。例えば、毎週一日だけそちらに足を運んでもらって、こちらが指定した物を量産するというのはどうですか? あとは私が、市場を見つつ、商品を流していこうと思います」

「……」


 それなら、かなり自由に行動できるな。


「わかりました。その話、受けたいと思います」

「ほ、本当ですか!?」

「はい。もちろん、まだ細かい部分に関しては話していませんので……」

「もちろんです! 詳しい部分について、こちらで書面をまとめて後日またお話に来ます!」

「あっ、はい、ありがとうございます……」


 嬉しそうにクルアさんが微笑んで俺の手を握ってきた。

 その際に彼女の胸が強調され、思わず見てしまう。


 別に、胸に惹かれたわけではないが……やはり大きいな。

 軽く癒された俺は、部屋へと戻る。


 いつかはリンを手助けくらいはできるようになろうと思っていた。

 こういった生活必需品を作ることで少しは助けられるかもしれない。


 家具職人、か。

 具体的にどのようなことをすればいいのかはまだ分からない。

 

 考えても仕方ないな。あとでクルアさんにまた話を聞けばいいだろう。

 それにしても、一つ驚いたことがある。

 

 家具ってすべてこの職業で作っているわけじゃなかったんだな。

 おかげで恥をかいてしまった。





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