第110話
……こんなにボロボロになっているとは思わなかった。
リンの様子は見られない。
「レリウス……何か手掛かりがあるかもしれない。探すよ」
「……はい」
呆然としていた俺の背中をカミラさんが叩く。
……カミラさんの言うとおりだ。このままここで呆然と休んでいる場合ではない。
リンがいるかもしれない。あるいは、リンにつながる手がかりがあるかもしれない。
ここで勝手に最悪の想像をして、それで落ち込んでいるわけにはいかなかった。
とにかく今は、足を手を動かさないと。
村を歩いていく。……蒼石の魔物との戦いのあとがあちこちに残っていた。
血があちこちにこびりついている。戦闘は数日前に行われたのだろうことがわかる程度に、乾いていた。
蒼石の魔物の死体が多くあった。
……人間の死体はどこにも見当たらない。
蒼石の魔物に食い散らかされてしまったのだろうか? ……それとも、みんなどこかに避難できているのだろうか?
「……レリウス、人間の血があんまりない」
「……血の判断がつくんですか?」
「うん、私吸血鬼だから」
「あっ、そういえばそうでしたね」
吸血鬼らしさがあまりなかったので、すっかり忘れていた。
俺の言葉にカミラさんが軽く頬を膨らませる。
……俺がその様子に苦笑していると――何か、音が聞こえた。
なんだ?
耳を澄ませる。その音は、ある瓦礫の山の方から聞こえた。
「――!」
人と思われる声だ。
「誰かいるんですか!?」
俺が呼びかけると、そちらから声が返ってきた。
……人間の声だ。ただ、瓦礫に埋もれてしまっているため、声は聞こえにくかった。
「カミラさん、瓦礫を動かすの手伝ってください」
「もちろん」
俺はカミラさんとともに、瓦礫を動かしていく。
やがて見えてきたのは、地下へと続く階段だ。
そして、その先に見えた、どこか痩せこけた人たちだった。
「よ、良かった! 助かったよ、あんたたち!」
ほっとしたように、彼らが飛び出してきた。
「こ、この村の人たちですか?」
「ああ……! 蒼石の魔物に襲われてな、ここに逃げ込んで、入り口をふさいでもらったはいいんだけど……出られなくなっちまってな」
「……そう、だったんですね。この村の人全員、ここにいるんですか!?」
もしかしたら、リンもいるかもしれない。
俺の言葉に、村人が首を振った。
「そ、その……何人かは襲われたときに村の外に逃がしちまったんだよ。だから、全員、じゃないな」
「その人たち……六人なら俺たちの村で保護しています。……その村の人たちから聞いて、俺たちはここに来たんです!」
「なに!? 本当か!? そ、それは良かった……あいつら、生きていたんだな……っ!」
嬉しそうに涙を流す男性。
……彼には申し訳ないが、俺はリンのことが気になっていた。
「すみません、この村の中にリンという女性はいますか!?」
「え? リン……?」
「は、はい!」
男性の反応が驚いたように目を見開く。
それから、彼の表情はバツの悪そうな顔になった。
「……そ、その。この入り口を塞いで蒼石の魔物からオレたちを守ってくれたのが、そのリンって女の子なんだよ。たぶん、あんたくらいの年齢の、な」
「……リンが、ですか?」
「あ、ああ。あのお嬢ちゃんかなり強くてな。オレたちじゃどうしようもなかった蒼石の魔物たちをばっしばっしやっつけてくれてな。けど、蒼石の魔物がたくさんいたから、村の外に誘導するように戦闘してくれてな……今、いないのか?」
「はい……」
……リンがいない。
俺がぎゅっと唇をかんでいると、カミラさんが俺の背中を叩いてきた。
「……死体はない。たぶん、どこかにいるはず」
「……はい」
……ああ、そうだ。
とにかく、今はリンを探す必要がある。
……それと、村の人たちも……俺たちの村まで連れて行く必要があるな。
まずは、地下にいた人たち全員を外へと出した。
それから俺は、持っていたポーションを全員に配っていく。
「ぽ、ぽぽぽポーションじゃないか! こんな貴重なものもらっていいのか!?」
「はい。俺は自由に造れますので。それと、おなかが空いている人はいますか? 軽いお弁当程度なら今用意できますけど……」
がっつりとした料理はここで出しても邪魔だろう。
俺の言葉に、一人が手をあげる。
控えめに手をあげた少年に続き、皆がゆっくりと手をあげる。
……この村は20人程度の人がいるようだな。
みんなに食事を手渡すと、さらに驚かれた。
「こちらも十分に用意していますから、奪い合ったりしないでくださいね。村に戻れば、さらにたくさんありますし」
「す、すげぇな……レリウスさん。こんなすげぇスキル、聞いたことねぇよ!」
「ま、まるで神様だよ! ……ありがとう! 久しぶりにこんなにうまい飯が食べられたよ……っ!」
涙を流しながら、がつがつとみんなが食べていく。
……俺はそれに苦笑しながら、馬車をもう一つ用意した。
皆が目を見開き、食事を喉に詰まらせそうになっていた。
「みなさん、こちらの馬車で俺たちの村まで案内します。……ただ、その俺たちはこれからリンの捜索を行いますので……すみませんが、ゴーレムたちとともに村まで移動してください」
俺の言葉に、皆がこくりとうなずく。
皆が理解したところで、俺はさらに続けた。
「向こうについたら、バルドさんという方に声をかけてください。村の代表みたいな方です。レリウスに保護された北の村の者といえば、伝わると思います」
「わ、分かりました……それにしても、そのご、ゴーレムもレリウスさんのものなんですか? ていうか、馬車も一瞬で造りましたよね?」
「……まあ、どちらも俺のスキルで造っているようなものです」
「す、すげぇ……」
ただただ、感心している様子だった。
村の人達の保護は少し雑になってしまったかもしれないが、俺はそれよりもやることがある。
リンを見つけないとな。
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