第105話
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防壁が村の周囲を覆うように展開される。
……あちこちで驚きの声があがっていた。
……先に、みんなに説明してから行ったほうがよかったかもしれないな。
出現した防壁のほうに 歩いていくと、子どもたちと一緒にいたビアンさんが呆然と眺めていた。
「ビアンさん、どうですか?」
「す、すごい……っ! こ、これ、さっきの模型とおんなじ造りだ!」
「はい……そのように造るために、あれを用意しましたからね」
子どもたちが俺のほうを見てきた。
目を輝かせていた子どもたちが、塔を指さした。
「レリウス! あれ入っていい!?」
「はい、どうぞ自由に見て回ってください」
俺がそう返すと、子どもたちはますます目を輝かせて、それから塔の方へと駆けて行った。
ビアンさんも子どもたちに引っ張られるままに近づく。
と、外と村の近くを守るように立っていた村の青年たちがこちらへとやってきた。
その者たちの多くが腰に下げている剣は、俺が用意したものだ。
代表するようにバルドさんが俺に問いかけてきた。
「れ、レリウスさんが作ったのですか?」
「はい。これからの警備ですが……基本的にはゴーレムたちを配置するようにしました。なので、ゴーレムたちの連絡を受ける人間が一人塔に用意された部屋にいれば大丈夫かな……というようにしていますね。実際に中に入ってみますか?」
「は、はい……っ!」
バルドさんたちとともに、俺たちも近くの塔と門へと向かう。
門の横には、門を開けるための操作室が用意されている。
内部には俺が作りあげた家具があるため、多少小さいということに目をつぶれば、そこで生活ができるようになっていた。
「……すげぇ! 今迄暮らしていた家とはくらべものにならないな!」
みんな喜んでくれているようだ。
塔へと移動する。螺旋階段をあがり、最上階に着く。
まずは、見張りが暮らせるような部屋が用意されている。そして、そこから左右の歩廊へとつながる扉がある。
右側の扉を開けると、細めのゴーレムがちょうど歩廊を歩いていた。
「ご、ゴーレム……これもレリウスさんが造った蒼石の魔物を倒せるゴーレムたち、ですよね?」
「はい。彼らが昼夜と見張りを務めます。何かあった場合は、この設置された鐘を使って知らせるようにします」
歩廊には中ほどに鐘が設置されている。
それを叩けば、村全体に一瞬で何かがあったと伝えられることになる。
これも、ビアンさんの提案だ。
「……す、すげぇなこれ」
「これなら、見張りもかなり気楽になるな」
「そうだよな。夜だって基本は休んで、ゴーレムたちに起こしてもらえればいいんだからな」
青年たちの言う通りだ。そのために、見張り塔で暮らせるスペースがある。
何かあれば、この歩廊にいるゴーレムたちが塔に行き、そこにいる見張りを起こすだけだ。
そのために、ここにいるゴーレムたちは皆敏捷を意識して造っている。
「……あ、向こうにビアンさんたちがいますね」
俺たちとは逆向きに移動していたビアンさんたちも、こちらに気づいたようで歩いてくる。
……さて、大丈夫だろうか?
一応、ビアンさんの指示通りに作製した。
だが、ビアンさんはかなり気合を入れて指導してくれたからな……。
彼女の要求と少しでも違えば、注意を受けるかもしれない。
緊張した気持ちでビアンさんを迎える。ビアンさんが俺の前で足を止めると、
「れ、レリウスさん……完璧ですね」
にこりと微笑んだ。どこか興奮気味だった。
ビアンさんの言葉にほっと胸を撫でおろす。
「レリウス、ありがとう。これで……村が一気に強固になった」
「いえ、気にしないでください。俺はレベル上げのついでに作ったようなものですからね」
俺は自分の鍛冶師のレベルを確認する。
レベルは15まであがった。
……さすがに、この防壁を造るのに半日近くかかったからな。
太陽が沈みかけ、夕陽が見えた。
歩廊からその様子を眺めていた。
「……綺麗」
カミラさんが目を細め、その夕焼けを見ていた。
……ふと、疑問に思った。
「吸血鬼種って太陽が苦手ですよね? カミラさんは大丈夫なんですか?」
「私の趣味は日光浴」
「……そ、そうですか」
「まあ、私ハーフだから。そういうの、問題なし」
にかっと笑ったカミラさんがそれから視線を下に向けた。
その表情が険しくなる。
同時だった。
かんかん、と強く鐘が叩かれた。
「……何か、あったのか?」
つぶやくようにバルドさんが視線をゴーレムに向けた。
ゴーレムが指を外に向ける。
その時には、カミラさんが翼を広げていた。
……普段は小さなその翼が、大きくなった。
「レリウス、門の外……っ」
カミラさんが指さしたところには……傷だらけの人がいた。
その後を追うように、蒼石の魔物たちがいた。
蒼石の魔物は三体だ。恐らく、襲われて逃げてきたのだろう。
「バルドさん、すぐに門を開けてきてください」
俺が声をかけると、バルドさんは敬礼する。
「は、はい! だ、だけどどうやって開けるんですか!?」
「……ビアンさん! わかりますか!?」
俺がさっとビアンさんを見ると、彼女は肩を跳ね上げてからこくこくと頷いた。
「は、はいいい! 任せてください!」
「それでは、お願いしますっ。カミラさん、一緒に門の向こう側におろしてください!」
カミラさんが翼を大きくしたのは直接助けに向かうためだろう。
俺の言葉にカミラさんは笑顔とともに片手を伸ばしてきた。
「空を飛んだことは?」
「今回が初めてですね」
「そっか、それじゃあ最高に楽しい思い出にしてあげる」
カミラさんとともに俺は歩廊の凸凹から飛び上がる。
……下は五メートル。想像していたよりもずっと高かった。