第98話
マガジンポケットにて、コミカライズ版の連載が始まります!
予定では7月27日、月曜日からとなりますので楽しみにしていてください!
また、書籍版2巻のほうも来月8月10に出る予定です!
カミラさんが暮らしているという家へとついた。
その途中、村の人たちにリンを見たかどうか確認してくれたカミラさんだったが、そのような目撃情報は得られなかった。
同時に、俺も自分がどうしてここにいるのか、それについての話をしていた。
「……黒い渦に飲まれた?」
俺はこくりと頷いた。
……まあ、俺の場合は飲まれた、ではなく自らそこに突っ込んだというのが正しいが。
「はい。そういった現象って聞いたことありませんか?」
……この大陸ではごくごくありふれたこと。
そういうことなら、俺もまだ安心できる。
一番怖いのは、誰も知らない未知の現象であるということだ。
一体誰が、どのような目的でこのようなことをやったのか……それが分かれば、いくらかは安堵できた。
「……私はない。けど、そのリンって子は勇者?」
「はい」
先ほどリンが勇者であることは伝えてある。
カミラさんは考えるように顎に手をやる。
「……分からない……けど。私たちの大陸にはこういう言い伝えがある」
カミラさんはそこで一度言葉を閉じてから、部屋にあった一つの石板をこちらに渡してきた。
そこには、文字が彫られていた。
『50年の月日が経過したそのとき。この国を救う英雄が現れるだろう』
……石板には血痕のようなものが残っていた。
これを残した者のその時の状況を思い浮かべながら、カミラさんに石板を返した。
「……50年。今、くらいですか?」
「うん、ちょうど……今年。……この大陸で今も残っている人たちは、みんな、この時を待ち望んでいたと思う」
カミラさん……。
彼女のその表情には気迫がにじみ出ていた。
「そして、今年……リンという勇者が現れたんだよね?」
「勇者は、一人ではありません……他にもたくさん勇者はいますね」
「もしかしたら、この石板を残した人はそれを言いたかったのかもしれない。それに何よりレリウスがいる」
「……俺、ですか?」
こくり、とカミラさんは頷いた。
「あの蒼石の魔物たちに抵抗する手段を持たない人もいる。……けど、レリウスが作った武器なら、みんなが戦えるようになる。これだけでも、今までとは比べ物にならないくらい違う」
「……まだ、全部が確証したわけじゃありませんよ?」
「いいや! 私の勘がそういっている!」
……カミラさんは目をきらきらと輝かせてそういった。
「……まあ、それについてはおいおい検証していきましょうか。それよりも、あの蒼石の魔物……あれは、結局どんな魔物なんですか? 一度死んでよみがえったというのは聞きましたけど……」
だから、ゾンビ系の魔物なのか? と問えば、カミラさんは違うと答えた。
「あれは、生み出された魔物」
「……生み出された、ですか?」
「うん、そう。あの魔物は、青い魔石を額にもった、『蒼石の首領』と呼ばれる魔物によって作り出されたの」
「蒼石の首領……」
額に魔石を持った魔物、か。
「蒼石の首領が現れ、当時いた人たちでは誰も勝てなかったから、この大陸は封印されることになったの」
「そうだったんですね……」
……もしも、抵抗手段が見つからないままであれば、下手すればこの世界全体が大変なことになっていたかもしれない。
上の人たちは、この国に残った数名を犠牲に、その選択をとったのだろう。
……そう考えると、最初は酷い選択だな、と思ったけど、きっと色々と悩んだ結果だったのだろうな、と思えてきた。
「……れ、レリウス。少し、頼みたいことがある」
「……何ですか?」
「……今日、私は魔物を狩って食糧を手に入れるつもりだった。ただ、魔物を発見できず、飢え死にしそうで……それは、私だけじゃないの」
「……なるほど。食糧ですね? それなら、みんながたらふく食べられるように用意しますよ」
「ほ、本当!?」
「ええ。俺だけ見せびらかして食べても、おいしくないですしね」
「あ、ありがとうレリウス!」
目を輝かせ、カミラさんが立ち上がる。
それからカミラさんの家の庭に子どもたちを集め、俺は色々な料理を披露した。
「う、うまい! 野菜なんて久しぶりだ!」
「こ、このハンバーガーも滅茶苦茶おいしい!」
「れ、レリウスさん、ありがとうございます!!」
みんなが嬉しそうに食べているのを見て、ほほえましくなる。
……俺の魔力を消費するだけで、これだけみんなが喜んでくれるのならお安い御用だな。
「誰か、火属性魔法スキルを持っている人いますか? いれば、食材などを作り、調理なども可能ですが……」
「あっ、それなら私使えますよ!」
元気よく手を挙げた一人の少女。
やる気にあふれた彼女に、俺は試しにとフライパンを作ってみせた。
「す、凄い……本当に手品みたいにすぐ作れちゃうんですね!」
「便利だなぁ……こんな凄い職業があるんだなぁ!」
「良いなぁ! オレもこんな職業が欲しかったぜ!」
フライパンの上に豚肉を用意する。Cランクの豚肉だ。
「ほら、後はたき火の上とかで焼いていけばいいんですよ。調味料は、これですね」
俺が塩と胡椒を用意し、肉の上に振りかける。
……どれも、Bランク程度で中々Sランクが出来上がらない。まだ俺のレベルが低いからだろう。
色々とモノを作っていたら、今の俺は7レベルまで上がっていた。
「ほら、良い感じに焼けて来ただろ?」
「わぁぁ! すっごいいい匂い……っ! よ、涎出てきそう!」
少女が目を輝かせる。……その隣では少年に混ざるようにして、カミラさんが涎をたらしていた。
……確かに、良い匂いだな。
「ほら、こんな感じでどうですか?」
焼きあがったものは、単純なステーキだ。
……だが、ここにいる子たちからすれば調味料で味付けした料理というのは珍しいようだ。
「……う、うまそう!」
「お、オレも食べたい!」
「ず、ずるいぞ!」
みんなで奪い合うようにして食事を始めてしまったので、俺が声をかける。
「ほら、みんな。まだまだありますから、そう焦らないでくださいね」
本当にみんな、楽しそうに食事をするな。
それを見ていると、俺も楽しくなってきた。