第八章ー2
◆◇◆
天井にぶら下がっていた電灯が落下してきた。
樋春が脳天を貫かれてから、何秒も経たない内に事態が一変した。
電灯が落ちて来ると同時、一年生三人に指示が入る。
《すぐにその場を離れてください。誘導します》
丁寧だったが、反論を許さない強い口調だった。
黒江は自力で、綾乃は博也を抱えて、言われるがまま体育館から離脱した。
降り注ぐ電灯は、直径一メートル以上。外側は鉄骨で覆われており、直撃すればただでは済まない大きさだ。
透香たちも自分たちの身を守ることに精一杯の様子で、追撃してくることはなかった。
通信機からの指示に従い、向かった先は生徒会室だった。
途中で何度も迂回したが、不思議なことに敵校生徒と相対することはなく、スムーズに生徒会室まで辿り着いた。
その道中から、生徒会室に至るまで。
黒江は樋春が殺されるまでの一連の流れを反芻し、どうするのが正しかったのか、自身の行動を顧みていた。
黒江は、樋春が殺されたと見て、我を忘れて飛び出した――わけではなかった。
身体強化により、視力、空間把握能力が上昇していた黒江は、樋春がミリ単位で回避していたことを、正確に知覚していた。
故に、だからこそ。
黒江は樋春を助けるために飛び出した。
あのタイミングで飛び出せば、間違いなく、視線は黒江へと集中する。その隙に、樋春本人が動いて退却するなり、それが無理であれば、綾乃が助けるなり、十分可能だと思ったのだ。
危険な賭けではあったが、勝算は高いと踏んだ。
その選択が正しかったのか、黒江には分からない。
黒江が飛び出したことで、思惑通り視線は集中した。
透香たちは突っ込んでくる黒江に注目し、龍海が対応しようと構えを取っていた。
黒江としては、その間に樋春が退却することを望んでいたのだが、蓋を開けてみれば、むしろ、邪魔になっていたとすら思う。
樋春と綾乃は二人とも、黒江を守るために動き、そして、最悪の結果となってしまった。
――もし、別の選択を取っていれば。
そう思わざるを得ない。
黒江があそこで突出しなければ、樋春は倒れた振りをしたままやり過ごすか、別の手段を取れただろう。
綾乃は、樋春が死亡したと判断したようだったから、どう動いたかは予想できない。けれど、少なくとも、黒江が動きさえしなければ、もう何秒かは時間的猶予があったはずだ。
対応力の高い彼女は、最適解を導き出したかもしれない。
もしかしたら、ひょっとしたら……。
そんなことを考えても仕方ないのは理解しているが、考えずにはいられなかった。
第三高校の絶対強者が――。
生徒会のリーダーが――。
自分のせいで失われてしまったかもしれないのだから。




