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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第七章ー実力
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第七章ー16

     ◆◇◆



 樋春が、突如現れた少女に斬りつけられ、地に倒れ伏した。


 一年生三人にとって、樋春は絶対的な存在であり、誰よりも強いと信じて疑わなかった人間だった。本人すら同格であると認めた虹沢透香にも、結局、勝ってしまったのだ。

 これ以上強い人間などいるはずがないと、目の前で見せつけられた、その直後だった。


 あっけなく崩れ落ちるその姿は、一年生にとって、衝撃的過ぎた。


 事実、対応力の高い綾乃を含めた全員が、何が起こったのか理解するまでに数秒を要し、微動だにできなかった。


 ――マズイマズイマズイ!!


 我に返った綾乃の頭には、焦りのみが浮かんだ。

 突然現れ、樋春を斬りつけた少女は、おそらく視覚操作か、それに類する能力だと推測できる。

 遠くから見ていた綾乃たちですら、急に湧いて出てきたようにしか見えなかったのだ。斬りつけられた樋春本人は何が起こったのか、理解すらできなかったかもしれない。


 ――どうする? なにができる? なにが正しい?


 綾乃は最適解を必死に探す。

 現状、樋春の状態が把握できていない。倒れ伏したまま動かないが、傷の程度が分かららない。

 首筋の辺りを斬られたように見えた。

 助からない程なのか、それとも、助ければなんとかなる程度なのか、その判断ができない。

「……っ」

 息が乱れる。

 心臓が脈打つ。

 早く、判断しなければならない。


 ――でないと、死ぬ!!


 透香は今、現れた少女の頭を撫で、こちらをさほど気にしている様子はない。龍海も、透香と少女の下へ駆け寄り、こちらへの警戒を緩めているように見える。

 樋春を助けるにしても、助からないと判断して退却するにしても、今しか、隙はない。


 ――向こうは完全に気を抜いてるみたいだし、やられたと思うのが普通だろうけど、もし、まだ生きてたら……? 樋春さんが抜けるのは第三高校にとって痛手過ぎる。でも、助けると言っても私たちでどうやって? けど生死の確認だけでもしないと……違う、無理に動いて全滅したら、それこそ……でも……っ!


 思考がまとまらない。

 体が凍り付いたように動かず、手足が震えた。


 その時だった。


 すぐ隣にいた黒江が、飛び出した。

「クロっ!?」

 引き止めるどころか、声をかける間もなかった。


 ――そうだ、佳那の時も……っ!


 佳那が殺された時、危険を顧みないで敵へ向かっていった。なにか、スイッチが入ってしまったかのように、命の危険すら無視して突進した。

「クロ、待って!」

 必死に追いすがるが、能力を最大出力で使用している黒江に追いつけるはずもない。

 前回の選定式ではスナイパーを殺すことができたが、今回の相手は樋春と同格の者たちだ。

 無策で突っ込めば返り討ちに合うだろう。

 このままでは、被害が拡大するだけだ。


 ――仕方ない!


 腹をくくる。

 敵方三人――少なくとも二名は、手練れ中の手練れだ。

 討ち漏らしているのに気を抜いたりしないだろう。

 やはり、樋春は既にやられていると考えた方が自然だ。

 ひょっとしたらまだ息があるかもしれないが、このまま黒江を放置しておいたら、それこそ大惨事だ。全滅の危険がある。

 透香たちも、本命の樋春を倒せたことで追撃の手を緩めてくれる可能性もある。

 逃げられるとすれば、ここしかないのだ。

 綾乃は狙いを定め、


「灰球!」


 巨大な鉄球を出現させる。

 黒江と透香たちの間に鉄球を設置すれば、視界を遮るだけでなく、黒江の突進を止めることができる。

 最大速度で鉄球に激突すればダメージは避けられないだろうが、死にはしないはずだ。ここで、むやみに突っ込ませるよりは断然良い。


 その判断に、間違いはなかった。


 むしろ、この上なく正解に近い判断だと言っても良い。

 だからこそ――。

「えっ!?」

 綾乃は目を疑った。


 出現させた十メートルにも及ぶ巨大な鉄球が、ナニカに弾かれ、脇へと逸れた。


 完璧に、完全に、同じタイミングで。


 倒れ伏していた樋春が、巨大な大仏を同じ場所へ、出現させていた。


「なっ!?」

「――っ!」

「これは!?」

 驚いたのは綾乃だけじゃない。

 樋春を討ち取ったと思っていた透香や龍海、そして、まだ息の合った樋春自身も、弾かれた大仏を見て、想定外の事態に困惑する。

 鉄球と大仏は、ほぼ同じ大きさ、同じタイミングで出現したことで、互いが互いを弾き合い、左右に吹き飛ぶ。

 それにより、黒江が敵へと向かう通り道ができてしまう。

「クロ、樋春さん生きてるよ!! 止まって!」

 透香たちへ向かって疾駆する黒江へ、綾乃は必死に呼びかける。

 再度、鉄球を出現させる時間的余裕も、距離もない。

 黒江自身が気付き、止まる以外の方法はなかった。

 見れば、向こう側では龍海が前へと進み出て構えている。

 先ほどまでの攻防で力の差ははっきりしている。

 このままでは、ただの自殺行為だ。


 ――あっ……。


 次に、綾乃の目に付いたのは、その横。

 樋春も透香も龍海も、猛進して来る黒江に目を奪われる中で。


 少女は、黒江に目もくれず、樋春を見下ろしていた。


「樋春さん!」

 心臓が悲鳴をあげる。

 なにか方法はないかと思考を巡らすが、今更、できることなど何もなかった。

 綾乃の声で目の前の少女に気付き、樋春は回避動作を取ろうと身をよじらせる。

 が、樋春の体はその場から動かなかった。

「あ……」

 座り込んでいる樋春の足元――。


 血の水たまりができていた。


 前回の選定式で負った傷に加えて、先ほどの無茶が重なり、ついに足が動かなくなったようだった。


「え……?」


 一瞬、樋春がこちらへ視線を向け、言葉を発した。

 直後。


「樋――」


 少女が刃を振り下ろし。


 樋春の脳天に、ナイフが突き立てられた。

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