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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第七章ー実力
95/131

第七章ー15

     ◆



 足が痛む。

 ズキズキと耐えようのない痛みを訴えて来る。

 前回の選定式で痛めた箇所から、また、大量の血が流れていた。

 解けた黒髪が頬に張り付き、氷の刃でズタズタにされた手や顔から、血が流れている。

 防刃仕様のおかげで貫通こそしなかったが、虎の子の改造制服も、あちこち裂けてしまっている。

 満身創痍。

 完勝とは程遠い。


 それでも彼女は、雄々しく、凛々しく、勝者として、立っていた。


「終わりだ」

 二年に渡り、張り合ってきたライバルの首を締めあげる。

「透香――」

「動くな龍海!! 動けば、即、折る」

 透香の窮地に気付き、駆け寄ろうとしてきた男を制する。

 龍海に遠距離攻撃はない。ない、が、自分たちのように閃光弾、もしくは重火器を持っている可能性も否めない。

 二年間もの間、透香を守り続け、イージスの盾とまで呼ばれた男を、甘く見るつもりはない。

 ちらっと視線を向けると、一年生たちも、なかなかに酷い状況だった。

 綾乃は改造制服が破れ、原形を留めていない。中に着ていたブラウスのボタンも弾け飛び、下着が露出している。

 龍海の攻撃を受け続けても一歩も引かず、必死に時間を稼いでいたのだろう。

 そんな彼女の隣にいる黒江も、彼女ほどではないが、なかなかのあり様だ。

 やはり改造制服はボロボロに千切れており、あちこち痣ができている。内臓を痛めて血を吐いたのか、それともどこかに傷を負ったのか、あちこちべっとりと血がついている。

 自分も大概だが、一年生たちも満身創痍なのは変わらないようだった。

 心の中で労い、視線を目の前の仇敵へと戻す。

「なにか、言い残すことは?」

「ぁっぅ……」

「お、そうか。首が締まっていたら喋れないか」

 樋春はほんの少しだけ、手の力を緩める。

 油断も慢心もない。

 この期に及んであがくようなら、即、首を折る。

 その覚悟は、とっくの昔にできている。

 できていないなら、ここまで辿り着いていない。


 ――二年以上の付き合いだからな。


 敵であれ味方であれ、この世界で、何年間も顔を合わせる相手というのは希少な存在だ。

 知らないうちに誰かに殺されるか、最後の言葉すら聞けないまま殺されてしまう者が非常に多い。

 恨みでも、怒りでもなんでもいい。

 最後の言葉くらいは聞いてやろうと、手を緩めた。

 透香はゲホゲホとむせ込み、それから口を開く。

「勝つ覚悟、とはよく言ったものだね……。下手をすれば死んでいたんだよ?」

「だが、勝った。それが勝敗の差だ」

 そうかもね、と透香は頷く。

「ボクは、勝つためには確率が大切だと思っている。リスクを背負ってでも前に出なければならない場面は、確かに存在する。その時、その選択で勝てるかどうか、確率を考えるんだ。……その点、君のそれは、無茶苦茶だった。だから、計り切れなかった」

 透香は弱々しく笑う。

 樋春は、初めて聞くその言葉に納得した。

 相手を自身の土俵へ引きずり込む戦闘スタイルは、常に、勝てる確率の高い方を選択しているがための強さだったのだ。自分が勝てる選択をし続ければ、すなわち、最強となる。

 反面、その強さは、あえて分の悪い賭けに出る相手にどう対応するのか、苦慮するだろうな、とも思う。

 今回、樋春は自分が傷つくことが分かっていながら前へ出た。樋春にとってそれは賭けであり、どこかで死ぬ可能性もあった。透香もそれが分かっていたからこそ、そのまま攻撃を続けたし、無理に戦法を変えなかったのだろう。

 しかしその行動こそ、樋春にとっては勝利の鍵となる。透香が無理をして来ないと読んでいたから、樋春は勝利をもぎ取れた。もし、透香も同じく、賭けに出ていたら、勝敗は変わっていたかもしれない。

「言いたいことはそれだけか?」

「そうだね、今更、特に言いたいこともないよ」

 透香は目を閉じる。

 落ち着いた表情だった。

 死の時を悟った、穏やかで、悔いがないという顔だった。


「さらばだ。ハデス、虹沢透香」


 彼女の二つ名を呼び、最大の敬意を払って、樋春は手に力を込めた。


「うん、バイバイ、天誅、金牧樋春」


 そうして。

 絶対強者同士の激戦は、幕を閉じる。


秋奈あきな

「はい」


 透香が誰かの名前を口にして。

 天誅、金牧樋春が崩れ落ちた。

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