第七章ー13
ほんの何分か前の攻防も、同じような展開だった。
その時は頭上に氷の槍が出現し、降って来た。
その方法で、あわや、という事態まで発展している。同じ手を使って来てもおかしくないが、その分、樋春が頭上を警戒するのは透香も分かっているだろう。
先ほどと同じ手を使う可能性は低いと見て良いはずだ。
となれば、神速を使用しての接近戦か。
否。
それも、ついさっき、勝ち切れないことを確認している。
氷牙狼は捕まり、正面突破の近距離戦もない。
透香の戦闘スタイルからすれば、ここで無理をする必要はない。
安全で、かつ、勝ちに繋げられるとすれば……
――背後か!
視線だけ後ろへ向けると、そこには出現中の氷が見える。
氷の槍か、それとも別のナニカかは分からないが、背後でピキピキと嫌な音を立てながら、氷が複数、生成されていく。
「――っ」
前へと視線を向けると、透香の顔色が僅かに変わっている。
氷を出現させる前に看破されるとは思っていなかったのだろう。
だが、まだ足りない。
看破しただけでは、勝ち切れない。
ここからどうするか。
どう攻めれば、勝ち切れるか。
氷の生成が終わる前に接近し、次の一手を探るか?
透香のもとに大仏を出現させて生成自体を阻止するか?
あえて防御に徹して、さらなる隙を伺うか?
なにが最善か。
どうすれば勝ち切れる――?
「氷槍乱舞!」
そうこうしている間に、氷の生成が完了する。
出現したのはやはり、氷の槍だ。
数十個にも及ぶ氷の槍が、樋春の背後に出現する。
その槍が不規則に動き、四方八方から樋春へと飛翔する。
――リスクはあるが、仕方ない!
対し、樋春も結論を下す。
さらに二体、大仏を出現させる。
一体は背後、一体は上空へ。
自身への壁を作り出す。
そして、
「行くか……」
深呼吸を一つ。
首筋と顔面を腕で守り、真正面から突っ込んだ。
「ちょっ!」
透香が初めて、明らかに焦った声をあげた。
氷の槍は全方位から襲って来ている。
普通に考えれば自殺行為も良いところだが、こちらには虎の子の改造制服がある。
第三高校の主力生徒が身に付けている改造制服は、単なる防刃、防弾の改造制服ではない。彩粒子を使用して作られた、最強の防御服だ。その強度、その防御力は、他校の生徒にとって、脅威の対象となっている。
顔と首筋さえ守ってしまえば、ある程度の攻撃には耐えられる。
この程度の攻勢で、命を奪われることはない。
「コイツ、馬鹿じゃないの!?」
透香が叫び、さらに前方から十数本、氷の槍が飛来する。
命を取られることはなくても、所詮は服。
当たれば痛いし、場合によっては改造制服の耐久値を振り切って破壊されることだってある。背後と上空を大仏で守っても、全方位空間攻撃に晒されれば、守り切れないのは自明の理だ。
「~~~~~っそが!」
腕の隙間から氷が入り込み、顔が切れる。
露出している手にも、いくつも傷が刻まれていく。
ポニーテールを形作っていたゴムが弾け、髪の毛が舞う。
隠しきれていない下半身にも空飛ぶ槍が着弾し、ズタズタに切り刻まれていく。
前回の選定式で傷ついた足が、さらなる悲鳴をあげた。
それでも、樋春は進撃を止めない。
一歩、また一歩、着実に透香へ迫っていく。




