第七章ー12
「お返し!」
透香は動きの止まった樋春へ正拳突きを繰り出してくる。
樋春の左胸辺りに当たる位置だ。
左腕で軽く捌き、カウンターで右わき腹を狙って拳を突き出す。
「ぉのやろっ!」
突き出した拳は、またも、突然、湧いて出てきた氷の塊に防がれる。
続けざまに二発、三発と打撃を見舞うが、その全てが、彼女に届くより先に、氷に防がれる。
「ほらほら、どうしたの~?」
涼しい顔で氷を操る彼女には、まだ余裕がある。
格闘戦では樋春に軍配が上がるが、能力戦では透香が上だ。
これでは埒が明かない。
樋春は一度、攻撃を止めて、自ら距離を取る。
――先を読め。行動の裏をかいて、仕留める!
透香の戦闘スタイルは熟知している。
彼女の持ち味は駆け引きだ。
戦いにおいて、相手の心理、思考を読むことは勝利に直結する。
透香は、それが上手い。無理をしてでも阻止しなければならない場面ではきちんと突っ込み、逆に、突っ込んだら危険な場面では、絶対に押して来ない。
樋春や綾乃は、どちらかというと、相手の動きに合わせて対応する戦闘スタイルだが、透香の場合、相手を自分の思うように動かす戦闘スタイルだ。
相手の思考を読み、先手を取って思い通りにさせず、自分の土俵に引きずり込む強さがある。
そんな透香に対し、受け身では勝てない。
勝つためには、こちらも透香の思考を読む必要がある。
樋春は、ここからの展開を二手、三手先まで読み切れるよう、頭をフル回転させる。
「あれ~? 距離を取っていいの?」
中、遠距離戦は、透香の土俵だ。
これまで、幾度となく戦って来たが、味方の支援がなければ樋春では押しつぶされるだろう。
「ふん。そうは言っても、一対一ではほとんど初めてだろう?」
「いやいやいやいや。たった今――ついさっきまでの戦いで、力量差は確定してるでしょ? ボクの勝ちに決まってるよ」
「なら、やってみればいいだろう」
挑発する。
透香の思考を読む必要はあるが、自分の戦闘スタイルを崩す必要はない。
対応して、勝機を見出し、勝ち切るのが樋春のスタイルだ。
そこへ先読みの視点を混ぜ込み、常に先手を取ってきた透香のスタイルをぶち壊す。
受け身だけでは勝てないが、相手のスタイルに合わせたからとて、勝てるとも限らない。
――自分のスタイルを捨てずに、先読みで受けて切って、後の先を取る。それがあたしの答えだ!
「氷牙狼」
透香が動く。
先ほど大仏を捕らえ、転がっていった狼を改めて再構築、蘇生させる。そしてさらにもう一体、自身の脇に出現させる。
樋春も、転がっていった大仏を一度消し、自身の傍に配置する。
――この場面、透香はどう動くか?
頬を伝う汗を拭い、思考を巡らせる。
氷牙狼を出しておいて、まさか使わないなんて選択肢はないだろう。仮に、二体同時に突っ込んできたとしても、大仏で受け止めることは可能だ。それは透香も重々承知のはず。
であれば、問題は次の一手だ。
狼を抑えられたところに、彼女はなにを仕掛けてくるか――。
「行け!」
考えがまとまらないうちに、透香の攻撃が来る。
まとまるまで待ってくれと言うわけにもいかない。
「くそっ」
左方向から襲ってくる狼は、さっき出した大仏で対応する。
正面から襲いかかってくる狼は、新たに大仏を出現させ、封じ込める。
薄青と金色の彩粒子が絡み合い、激しく火花を散らす。
ここまでは、予想通りだ。
「次は……」
透香本人が神速で距離を詰めて来るか、それとも、氷で追撃してくるか。
――考えろ!




