第七章ー11
「じゃ、こっちもいい加減、ケリをつけよっか~」
こちらへ向けられる透香の目は、相変わらず気持ちが悪い。
「ああ。そうだな」
頷き、構える。
こうして透香と一対一で戦うことは、実は初めてに近い。
これまでは、常にどちらかに仲間がいて、互いにその相手にも警戒し、戦い続けて来た。戦いやすいこともあれば、苦戦を強いられて仲間を失ったこともある。
今回は、実力一本勝負となる。
好機と言って良い。
守ってくれる仲間がいないとも言えるが、『守らなければならない対象』がいないとも取れる。
全ての力を、透香にぶつけられるのだ。
「行くよ~」
「わざわざ宣言しなくていい。さっさと来い」
そして、それは透香も同条件だ。
実力で相手をねじ伏せれば、それで勝ちとなる。
数年間に渡る戦いに、終止符を打てる。
――ここで決める!
樋春は全身から金色の彩粒子を漲らせ、
「よーい、どん!」
突撃してきた透香を、迎え撃つ。
樋春の戦闘スタイルは、大仏操作という破壊力抜群の能力を駆使した、圧倒的な物量、膂力を用いたごり押しだと思われがちだが、そうではない。その場その場で相手の動きを見極め、決めるべき時にきっちりと決め切る勝負強さが持ち味だ。
そう言った意味では、確かに、綾乃の『対応力』と似ている面はあるかもしれない。
樋春は視認できないながらも、これまでの経験から、透香が自分の近くに到達するタイミングを計る。
透香の神速は無理やり能力で体を動かしている性質上、ジグザグに動いたり、急な方向転を行ったり、そういった細かい動きができない。
つまり、突っ込んでくる場合、正面しかない。
あとはそこに合わせて攻撃を入れれば――
「天誅、一閃!」
「氷鉄!」
渾身の一撃を繰り出すが、その程度で決まれば苦労はない。
二メートル程の大仏を出現させ、透香の動きに合わせて手刀を振り下ろさせるが、簡単に防がれた。
振り下ろした手刀は透香の氷とぶつかり合い、本人には届かない。
同時。
「バイバイ大仏さん」
横から猛スピードで駆けて来た狼が、大仏の脇腹を捕らえる。
大仏は勢いに押され、そのままの狼とともにごろごろと転がっていった。
「だったら!」
樋春はひるまず、前へ踏み出す。
能力を使用した勝負では、どうしても二つの能力を保持する透香に遅れを取ってしまう。
真正面から勝負していたのでは分が悪い。
しかし――。
「格闘戦なら!」
右の拳で正拳突きをお見舞いする。
透香とて、万能ではない。龍海という近接格闘のスペシャリストが隣にいるからか、彼女自身の格闘スキルは決して高くはないのだ。
「おっとと」
透香は半歩右横にずれ、ぎりぎりで回避する。
次の手はない。
――なら、追撃!
体を半回転させ、裏拳を放つ。
腕を立て、あっさりガードされるが気にしない。
さらに体を捻る。
今度は左足で三日月蹴り。
「――っつ!」
「ざ~んねん!」
放った蹴りは、透香に当たる直前で氷の壁にぶち当たる。
大仏の蹴りすら防ぎ切る氷の塊は分厚く、容易く貫けない。
蹴りの衝撃がそのまま足に返って来た。
格闘戦そのものは苦手でも、こういうことができるから、透香は前へ出ることを恐れない。一瞬の気も抜けない近接戦で、ためらいなく能力を扱える技量、繊細さは、樋春から見ても驚嘆に値する。




