第七章ー10
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金牧樋春と虹沢透香の出会いは二年前に遡る。
両者ともに一年生の春。
鮮烈な出会いだった。
樋春が、不意打ちで透香を殺しにかかったのだ。
樋春にとって、四度目の選定式だった。既に能力を発現させ、当時の生徒会長に気に入られていたこともあり、一年生にして、相手校へ乗り込み虐殺を行う『攻撃班』の一人に数えられていた。
対して、透香は二度目の選定式。
能力は発現させていたものの、まだ実戦経験が乏しく、特に『加速能力』に関しては振り回されることも多かった。
乗り込んで来た樋春たち第三高校の生徒に、二色の髪色を持つ透香は標的にされた。
樋春は逃げ惑う透香の目の前へ、突如大仏を出現させ、殺すつもりで仕掛けた。
透香はなすすべもなく殺されるところだったが――
それを阻止した人物が、龍海権蔵だ。
一度目の選定式で透香のポテンシャルに気付いた龍海は、本人には内緒で、密かに透香の護衛として張り付いていた。後に、透香から『ストーカー事件』として罵られる案件なのだが……透香と龍海がタッグを組むきっかけにはなった。
結局、その時の選定式では、龍海の鉄壁の守備を崩せず、樋春は透香殺害を失敗している。
それから二年。
計、五回にも及ぶ選定式で、三人は幾度となくぶつかった。
樋春にとって、初めての選定式で自身を守ってくれた、優しくて頼もしい先輩は透香に殺された。
選定式を変えると誓い合った同級生は、龍海に殴り殺された。
守ると決めた一つ年下の後輩は、氷の狼に食い殺された。
――けどまあ、それは向こうも同じか。
樋春は透香と向き合い、思い出す。
透香だって、龍海以外の友人がいなかったわけではない。
トータルで考えれば、こちらの方が殺された人数は多いし、その分、敗走を余儀なくされた回数も上かもしれない。
それは認める。
では、やられ放題だったかと言えば、そうではない。
樋春が守備に徹するようになってからは特に、こちらの実力を知っているからか、透香は信頼できる者だけを連れて来た。
そいつらは、皆殺しにした。
透香や龍海のような、保持者の中でも最高クラスの手練れはそうそういない。
ほんの数秒の油断、慢心を刈り取るのは簡単だった。
龍海がいくら鉄壁を誇ろうと、その能力は自分にしか作用しない。
加えて、龍海が最優先で守っているのは透香であり、他の者を殺すことは樋春にとって苦ではなかった。
透香はいつも、こちらばかりが痛手を負っているかのような発言をするが、そんなことはない。
――あたしたちは、互いに恨み、殺したいと思っている。
なればこそ。
今回の、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「あの子、なかなかやるね」
透香は龍海と一年生たちの戦いへ目を向けていた。
「あの子?」
「女の子。ちゃんと、見えてる」
「……」
その言葉には、反応しない。
どう思っているのか、悟られたら標的にされる。
「雰囲気は違うけど……あんたと似てる気がするよ」
「似てる?」
「うん。あの子、ひょっとしてお気に入り?」
「さあね」
平静に、どうでもいいことのように答える。
透香の視線の先にいるのは綾乃だ。
――さすがに、目ざといな。
似ているかどうかともかくとして、綾乃が一年生の中で頭一つ抜けているのは確かだ。
持ち前の対応力と、その場で自分がなにをすべきか考えられる思考力、そして、決断力。能力の扱いや戦闘技術だけの話ではない。綾乃本人に自覚はないだろうが、彼女は既に、前線で戦っても、十分生き残れる域に達している。




