第一章ー7
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「巨体に物を言わせた破壊行為など、全く美しくない。赤点だ」
その女子生徒の体からは、金色の彩粒子が舞っていた。
我こそが王だと言わんばかりの存在感。
二人が見上げるその背中は、果てしなく大きく見えた。
「そこの二人、少し待て。すぐに片付く」
こちらを向いたその顔には、不安のふの字も見当たらない。
絶対強者の自信が浮かんでいた。
「なんなんだ?」
目まぐるしく変わる展開に脳がついていかない。
黒江は状況を把握しようと、先ほどまで自分たちを殺そうとしていた木人がどうなったのか、中庭へ目を向け――
「……」
目を向けて、もはや、驚かなかった。
二十メートルほどの仏像が中庭に立っていた。
奈良の大仏より大きいんじゃないだろうか。
ちらりと下を見ると、その足元には先ほどまで自分たちを殺そうとしていた木人がいる。
大仏に踏み潰されていた。
「その足をどけろ!」
木人が地面でもがくが、大仏は胸のあたりをがっちりと踏みつけており、微動だにしない。
それどころか、木人が暴れる度に、抑えられている辺りの木がきしみ、バキバキと音が鳴る。
「ん?」
女子生徒がなにかに気付き、顔を上げる。
直後、
「弾けろ!」
先ほど、西校舎を襲撃した大剣使いだろうか。
屋上にいたらしいその男は、上から落ちてきた勢いそのまま、大仏の左肩へ大剣を振り下ろす。
西校舎の時と同じく、轟音と共に爆発が起きる。
起きる、が。
「……はぁ」
女子生徒はため息を吐く。
大仏はびくともしていなかった。
爆発のせいで肩が割れ、無残な姿を晒していたが、稼働に影響はないようだった。
「命を粗末にするな」
女子生徒の言葉と同時、大仏の大きな右手が動く。
――速い!
二十メートルはあろうかという巨体の動きではなかった。
大剣を振り下ろした態勢のままだった男を、一瞬で捉え鷲掴みにする。
そして間髪入れず、西校舎の壁へ思いっきり投げ飛ばした。
受け身など意味がないと素人目にも分かるスピードで、大剣使いが吹き飛んでいき、
「さようなら」
グチャっ。その肉体は潰れた。
「さて、あとは、このデカブツだけだが……」
女子生徒は冷たい目で木人を見下ろす。
木人はなにやら、「離せ」とか「やめろ」とか「ふざけんな」とか喚いていたが、勝敗は決していた。
大仏の足に力が込められ――木人の胸に大きな穴が開く。
穴から緑色の彩粒子が大量に流れ、木人はそのまま沈黙した。
「ふむ。動かなくなったのを見ると、自身を樹木に変身させる能力か? 使い方次第ではもっと生き残れただろうに……」
女子生徒はやれやれ、と肩をすくめてみせる。
圧倒的だった。
一撃で何十人もの生徒を殺した大剣使いを紙屑みたいに屠り、巨大にして強大なスケールを持つ木人を難なく打倒してしまった。
第三高校のブレザーを羽織っているから、味方なのは間違いないが、一体何者なのか。
「あの、あなたは……?」
ごくりと喉を鳴らし、尋ねてみると、女子生徒はやはり、自信たっぷりな笑顔で宣言する。
「国立転移第三高等学校、生徒会所属、生徒会長、金牧樋春。三年生だ。よろしく頼む」
金色の彩粒子が強く、輝いていた。