第七章ー7
「クロ、加勢するよ」
博也を回収し、戻ってきた綾乃と並び立つ。
「博也は?」
「肋骨を何本かやられてるけど無事だよ」
「そっか」
安堵する。
これで、実はもう死んでました、では最悪が過ぎる。
「二対一、ですか。ええ、構わないですよ?」
悠然と歩を進めて来る龍海に、隙はない。
打撃なら通じる、と言葉で言うのは簡単だが、それで解決するなら困らない。
先ほどの攻防で身に染みて分かったが、龍海は格闘戦のプロだ。
薙ぎ払いに来た足を踏みつけ、捕らえるなど、樋春でもできないだろう。綾乃がフォローに入ってくれたとしても、勝てるかどうか怪しいところだった。
「クロ、サポートするから、突っ込んで」
「ああ」
短く言葉を交わす。
樋春から龍海の能力を聞いた際、もし遭遇してしまった時に備えて対策は立てていた。
黒江は大きく息を吸い、
「行くぞ!」
大きな一歩を踏み出す。
透香ほどではないが、身体強化×身体強化で最高速まで加速し、距離を詰める。
「なにかと思えば突進――っ!?」
龍海が顔色を変える。
能力を無効化すると言っても、『龍海に当たれば』の話だ。
黒江の接近に合わせて、綾乃が灰球を出現させた。
突然目の前に鉄球が現れ、龍海の視界は完全に塞がれた。
龍海はすぐに鉄球を振り払うが、その遅れはコンマ数秒を争う接近戦では致命的だ。
龍海が鉄球を振り払った直後、
「これでどうだ!」
黒江は渾身の正拳突きを放っていた。
胸部中央へ放たれた拳は、
「良い策でしたが、あと一歩、足りませんね」
空を切る。
「くそっ!」
悔しいが、巧い。
龍海は、先ほど黒江がやってみせたように、重心を下げ、地面深くまで体を沈み込ませることで回避していた。
「お返しです!」
龍海は立ち上がりつつ、黒江の鳩尾めがけて右腕でアッパーを繰り出す。
達人クラスの武道家が放つ拳は、常人に見切ることは不可能だ。
「――っ」
まさに紙一重。
黒江はぎりぎり、上体を後ろにそらしてアッパーを避ける。
「っし!」
避けてしまえばアッパーは隙が大きい。黒江は龍海の懐へ入り込み、右わき腹へ強烈なフックを叩き込んだ。
手応え、あり。
「がっ!」
「ぐっ」
だが、結果は相打ちに終わる。
避けられることを見越していたのだろう。
龍海は振り上げた腕を折りたたみ、黒江の頭部へ肘を打ちおろしてきた。
「~~~~~~っ!」
黒江は肘打ちをまともにもらい、床に倒れ込む。
頭が割れるような衝撃だった。
脳震盪を起こしたのか、それとも別の理由か、立ち上がろうとしても足に力が入らない。視界にちかちかと星が飛び、頭が朦朧とする。
暫くは、立ち上がれそうになかった。
「ええ、なかなか危なかったですよ。筋は良いですね」
対する龍海は、脇腹を抑えつつも余裕がある。
ルールありの格闘技においては、頭部への肘打ちは基本的に禁止されている。過去には死亡事故も起きているほど危険な行為だ。
しかし、選定式というこの異常な場においては、ルール違反どころか、どんな形であれ、相手を殺せば表彰モノだ。
警戒せずに突っ込んでしまったこちらが悪い。
「それで、あなたはどうしますか?」
龍海は動けない黒江を残し、綾乃へと視線を向ける。
「どう、というのは?」
綾乃は喋りつつ、苦し紛れに何発か灰球を放ってみるが、どれほど速度を上げても、龍海に当たった瞬間に無力化され、その場に停止してしまう。
それどころか、龍海が停止した灰球を握ると形が崩れ、鉄球は灰色の彩粒子に戻ってしまった。
藍色の深い海に飲み込まれ、全てをねじ伏せられていくかのような、そんな光景だった。
「あなたとて、金牧樋春に師事しているのでしょう? ある程度、格闘戦はできると思いますが?」
「……」
「ええ、それが利口な選択です」
綾乃が手を前に突き出し構えると、龍海は満足気に頷く。




