第七章ー5
「こういう使い方はしたくないが……」
樋春は上空へ手を掲げ、三体目の大仏を出現させる。
三メートル程の大仏に、次々と氷の刃が降り注ぐ。
氷と金属が交差し、弾けた。
いくら氷が硬くても、金属に当たれば割れるしかない。樋春は大仏を盾代わりに使うことで上空からの強襲に耐えて見せる。
一見、それで防ぎ切れるように思えるが、
「予想通りの対応、ありがと」
樋春と同格である透香が、その後の攻撃手段を用意していないはずがない。
透香は樋春の対応を完璧に予知していた。
「再集束」
大仏に弾かれた氷の槍を集め、固める。
バラバラに砕け散った氷が集束し、みるみるうちに大きさが増していく。
数秒後、出来上がったのは十メートルにも及ぶ巨大な氷柱。
大きな花にも見えるその氷柱は、樋春が盾代わりに出現させた大仏の実に三倍強の大きさだ。
「キャハ! 氷華鉄槌!」
透香は狂気じみた笑みを浮かべ、腕を振り下ろす。
スピードこそそれほどではないが、物量が段違いだ。
こんなものを真正面から受けたら、改造制服とか彩粒子の身体強化とか、そんなものは関係なく一瞬でミンチにされてしまう。
「ちっ!」
樋春は早々に防ぐことを諦め、回避行動に移る。
だが――
「残念でした!」
その行動も、透香の予測範囲内。
樋春より上だと自負するだけのことはある。
樋春の後方にはステージがある。前方へ逃げざるを得ない状況を意図的に作り出していた。
逃げた先には、先ほど放った氷の狼がいる。
狼の相手をしていた大仏は、壁に吹き飛ばされていた。
「――っ!」
樋春の顔が焦りで歪む。
樋春の背後では、そのまま落下した巨大な氷柱が体育館の床に突き刺さり、木材や氷が弾け飛ぶ。
盾代わりに出していた大仏は間に挟まれ、ひしゃげていた。
前へと視線を向ければ、左右斜め前に氷の狼が二頭、待ち構えている。
退路がない。
「加速ぅ!」
透香は手を抜かない。
さらにそこへ、透香自身も突っ込んで行く。
神速の力をフルに活用し、透香は一気に樋春との距離を詰めた。
「これで!」
繰り出されるのは、足払い。
体勢の整っていない樋春は、バランスを崩しながらも咄嗟に跳躍して回避する。
――ヤバいぞ!
端で見ている黒江でも分かった。
その跳躍は、明らかに悪手だった。
いっそのこと、足払いを素直に受けていれば他に対応ができたかもしれない。
空中に浮かぶ樋春へ、脇に控えていた狼が二頭、襲いかかる。
「ちっ!」
樋春はそれでも対応しようと大仏を出現させる。
空中に浮いたままでも状況を把握し、能力を発動させる機転、防御力はさすがの一言だが、相手が悪い。
「邪魔」
苦し紛れの大仏操作は意味を為さない。
大仏は猛然と迫る狼に跳ね除けられる。
「キャハハ」
透香は勝利を確信し、口角を上げた。
ようやく地面へ着地した樋春へ、狼の口が迫る。
逃げることも、防ぐこともできないタイミングだった。
先の先まで見切った透香が、第三高校の絶対強者へ食らいつく。
黒江は目を背けかけ――
「樋春さん!」
隣で叫んだ綾乃の声に、引き戻される。
絶体絶命の危機に、綾乃は反応していた。
ガゴンという金属音が鳴り、狼は横から飛んできた鉄球に弾かれ、大きく体勢を崩していた。
樋春はその間に透香から距離を取り、危機を免れる。どころか、瞬時に大仏を出現させ、狼が体勢を立て直す前にその首を蹴り飛ばす。
狼の首は千切れ、あらぬ方向に飛んでいく。
脅威だった狼を、数瞬で戦闘不能に追い込んだ。
「龍海ぃ!」
息を吐く樋春とは対照的に、苛立ちを見せるのは透香。
こちらへ向けて、怒声を響かせる。
「ええ、ええ、分かっていますよ」
龍海はやれやれと首を振る。
「やってくれましたね」
今まで、樋春と透香の戦闘へ向けられていた顔が、こちらへ向く。
長身の男、龍海権蔵が臨戦態勢を取る。
「どうして、自ら進んで死地へ赴くんですかね? 手を出さなければ生き残る可能性もあったでしょうに……」
龍海の体から、藍色の彩粒子が溢れ出す。
量が多いし密度も濃い。
樋春や透香と比べても遜色ないレベルだ。
「ごめん、クロ。火をつけちゃったみたい」
「いいよ。むしろお礼を言いたいくらいだ。よくあの場面で横槍を入れられたね」
綾乃は気丈に、あははと笑って見せるが、頬が引きつっている。
目の前にいる龍海権蔵の能力は、二つの能力を保持する透香と比べても異常と言えるものだ。
正直に言えば、戦いたくなかった。
「ええ、ええ、こちらはいつでもいいですが?」
長身の男が、腰を落とし、どっしりと構える。
「行くよ」
「いつでも」
頷き合い、二人も構える。
黒江、綾乃 VS 龍海権蔵。
二つ目の戦いが、幕を開ける。




