第七章ー4
「戦いにおいて、『勝つ覚悟』とは、すなわち『相手を殺す覚悟』でもあり、『どんな状況でも諦めない覚悟』でもある。これを身に付けるのは容易なことではない。この気持ちが強ければ強いほど、窮地に立たされた時でも逆転の発想を生むし、誰かに助けられる形で生き残ったとしても、次こそは、と反省し、前へ進める」
「つまり、樋春は戦闘技術云々も大切ではあるけど、それよりも戦いに対する姿勢の方が大事だと、そう言いたいの?」
樋春はいいや、と首を振る。
「戦闘技術の差は勝敗に直結する。あるに越したことはない。全くのド素人が勝てるわけもない。……ただ、お前が問いたいのはそういうことではないだろう?」
「……うん、そうだね。分かった、ありがとう」
二人の間で、なにか通じ合うものがあったのか、透香は素直に頷き、それ以上質問しなかった。
――勝つ覚悟、か。
二人のその感覚は分からなかったが、黒江にとって、樋春の回答は響くものがあった。
佳那が撃たれる直前、一年生は双子を殺すコトを躊躇した。
生き残ることばかりを考えていたせいで、勝つ覚悟が足りていなかった。
黒江はその直後に相手を殺してしまっているけれど、それは頭に血が上り、我を忘れていた時の話で、到底、覚悟ができていたとは言い難い。
樋春の言うように、無理だと諦めてしまうのは簡単だ。
実際、自分の限界を決め、『このくらいでいいや』と目標を低く設定し、中途半端に流してしまうことは誰にだってあるだろう。
それでは勝てないと、樋春は言う。
樋春から戦闘技術を叩き込まれ、ある程度戦えるようになったのは間違いないが、ひょっとしたら、そうした部分で樋春や透香、龍海や赤之城と差が出ているのかもしれなかった。
「まだまだ行くよ?」
「ああ」
樋春は改めて透香と向き合い、構える。
絶対強者が二人、息を整える。
「第二幕、スタート!」
先に動くのはやはり、透香。
「氷牙狼」
透香の左右に二体、氷の狼が出現した。
全長二メートルといったところか。
ピキピキと氷独特の音が鳴り、周囲の温かい空気が一気に冷やされる。白い霧が生まれ、あたかも狼の口から息が吐き出されているように見える。
「ごー!」
透香のかけ声で氷の狼が疾駆する。
狼のスピードは、綾乃の灰球と比べても遜色ない。
たかが氷と侮るなかれ。
二メートルにも及ぶ氷の塊は、重量だけでも相当なものになる。
その上、綾乃の灰球と違い、そこに牙や爪が生えているのだから性質が悪い。
距離を詰められたらひとたまりもない。
「今更、そんな手が通じるとでも?」
迫る氷牙狼に対し、樋春は大仏で応戦する。
二体の狼を、同じく二体の大仏で受け止める。
狼の牙が大仏の腕に突き立てられるがびくともしない。
「氷の強度で大仏を噛み砕くのは無理があるぞ?」
「だろうね。知ってるよ」
幾度となく対戦したきた二人は、互いに対策を立て合っている。
「むっ!?」
誰もが狼に目を奪われる中、透香は次の一手を打っていた。
いつの間にか、体育館上空に無数の氷槍が発生している。
ズラリと並んだそれらは、全て樋春の頭部へ狙いを定めていた。
改造制服を着こんでいることを知っての対策だろう。
ただ氷を当てるだけでは、防刃、防弾を兼ね備えた改造制服を貫くことはできない。急所となるのは頭部周辺しかない。
「ほい、ど~ん」
透香が人差し指を上から下へ動かすと、氷の刃が一斉に落下してくる。
もともと弾丸級の速度で放てる氷に、さらに重力が加わる。
スピードは先ほどの狼以上だ。




