第七章ー1
虹沢透香の第一印象を一言で表すなら――
絶対強者、だ。
名前を聞かなくても分かった。
――この人が……。
「どうもどうもこんにちは、ボクは虹沢透香……て、知ってるかな? そっちで怖い顔してる誰かさんが教えてるよね?」
ふざけたテンションは第八高校特有なのか。
赤之城と似た雰囲気を感じる。
だがその身から溢れ出る気配は赤之城のそれを圧倒的に上回る。小さな体から漲る〝最強〟のオーラは、樋春と比べても遜色ない。
樋春と同格の存在だと聞いてはいた。聞いてはいたが、心のどこかで『樋春と同格なんて、そんな人間がいるか?』と、半信半疑だった。
体が勝手に震え出す。
心が怯えている。
博也が蹴り飛ばされたことが些末な問題に感じてしまう。
それほどまでに、彼女から発されるプレッシャーは異常だった。
「あれ~? お友達が吹っ飛ばされて動転しちゃったのかな? そのまま動かないなら~」
虹沢透香は、ぎょろりと爬虫類のような丸い目を向けてくる。
「ぶっ殺しちゃうよ~?」
ぞわり。
身の毛がよだつ。
恐怖で体がこわばる。
「透香。先に突っ込むなと言ったでしょう」
「ふぎゃっ」
ゴンと少女の頭が叩かれる。
「龍海~、人の頭を簡単に叩かないでよ」
「ええ……え?」
「え? じゃないよ!」
「失礼しました。あなたがまともなことを言うとは思わず」
慇懃無礼。
強者の透香に対し、対等に接するその男は、
「どうも、おそらくそちらで睨みを利かせている方に教えてもらっているとは思いますが……龍海権蔵と申します。苗字で読んでいただければと。よろしくお願いします」
上辺だけは丁寧に、頭を下げられる。
そして改めて、二人は並び立つ。
――これは……。
脈が速くなり、冷や汗が噴き出した。
透香だけでもヤバイと感じたが、二人揃うと『完成』されている気がした。
少女、虹沢透香は、二色の髪色を持つ。
黄色と薄青色が混じり合った二色混在の髪色。長めのそれを肩口で束ね、おさげにしている。童顔で小柄だが、胸は大きく、女性らしさもはっきり見て取れる体躯だ。
男子、龍海権蔵は、いかにも副会長といった雰囲気を持つ。
強烈な存在感を放つ透香の横にいて、だからこそ、その色が際立つ。藍色の髪の毛に黒縁の眼鏡、学ランがよく似合っていた。薄い顔立ちで、体は縦に長い。百八十センチ以上あるだろう。
「おい」
騒ぐ二人に、声がかかる。
「新入生に挨拶をして、こっちには挨拶なしか?」
樋春だ。
透香は樋春に見えない位置でニヤっと笑うと、くるりと樋春の方へ向き直る。
「あ、大仏おままごとさん、やっほ~、元気にしてた?」
続いて、龍海も眼鏡を押し上げ、一礼する。
「失礼しました、金牧樋春様。ご無沙汰しております。壮健なご様子、なによりです」
それぞれがそれぞれ、馬鹿にした態度で挨拶をする。
樋春は舌打ちをして「おかげさまでな」と返事をする。
「それで? 今回は、この子たちが生贄になるの?」
透香は軽い調子で言う。
「生贄……?」
「なんのこと?」
指を指された黒江たちが戸惑いの声をあげると、透香は凶悪な笑みを浮かべる。
「ん? あれ~? もしかして教えてないの?」
わざとらしく口元を手で覆い、「びっくり!」というポーズを取る。
「あ、もしかして後輩たちの手前、隠してたりする?」
「黙れ」
「そっか~。そうだよね。まさか毎回、ボクたちと戦う度に、仲間に守られて生き延びているなんて、言えるわけが――」
「黙れと言っている!」
透香の言葉を、樋春は大声を出して遮った。
透香と龍海は意に介した様子もなく、「怒られちゃったよ」、「当たり前です」などと話している。
「まあとにかく、そんなわけだから、君たち覚悟だけはしておいてね」
パチリとウインクが飛んでくる。
遠目でも、ぎりっと歯ぎしりする樋春の姿が見える。
――まさか。
そんな話は聞いていない。
「……」
ドクンドクンと心臓が警鐘を鳴らしてくる。
樋春が、仲間を犠牲に生き延びている?
絶対強者たる彼女が、この二人の前では、敗走を余儀なくされているということだろうか。




