第六章ー14
「だったら、これで!」
切り替え、動いたのは綾乃。
数え切れないほどの鉄球を出現させ、赤之城めがけて発射する。
今度は一直線じゃない。
壁や天井にぶつけ、軌道をバラバラにすることで直撃のタイミングをずらしている。これならば、一度の衝撃波では止められないだろう。
波状攻撃ならば――
「温い! まだまだ若いぞ、諸君!!」
赤之城は叫び、ぎゅうっと握り込んだ左の拳を、声と共に勢いよく前へ突き出す。
「嘘っ!?」
鉄球どころか、近くにいた綾乃も一緒に吹き飛ばされた。
地鳴りのような轟音が響き、廊下の窓が割れ、天井にひびが入る。
「――っ!」
黒江たちがいるところまで途方もない衝撃波が押し寄せ、その場で踏ん張るのがやっとだった。
――こんなの、どうすれば……?
皮膚が露出している顔付近を腕で防ぎつつ、黒江は思考を巡らせる。
これほどの威力を出せるのならば、綾乃の灰球でいくら攻撃を仕掛けても無駄だろう。押し返されるのは目に見えている。
博也の点火は、彩粒子自体を押し戻されるため意味を為さない。綾乃や黒江と連携しようにも、赤之城は視野が広い。虚を突けるとも思えない。
黒江も同様だ。もし接近できたとして、至近距離でこの衝撃波をもらえばただでは済まない。身体強化と改造制服があっても、どこまで衝撃を緩和できるか……。十メートルもの距離があって、この威力だ。
真正面から受ければ、怪我では済まないだろう。
「さて、正々堂々、とはいかなかったが、なかなか楽しませてもらったぞ」
こんなふざけたヤツに負けたくはなかったが、現実として、打つ手がない。
勝ち筋が見えない。
「どうする?」
博也が問いかけて来るが、答えがない。
綾乃も起き上がった姿勢のまま、口を引き結んでいる。
壁を、思い知る。
樋春は、事前に赤之城の名前は出さなかった。
この男は、要注意とされた虹沢透香と龍海権蔵よりも格下なのだろう。
それでも、今の黒江たちでは勝てないのだ。
努力をしてきた。
精一杯、やれるだけのことはやってきた。
生き残るために、今後こそ、誰も死なせないために。
樋春にも、付きっ切りで特訓をつけてもらった。
なのに――時間稼ぎしか、できないのか。
「楽しそうだな、諸君。あたしも混ぜてくれ」
凛とした声が響き。
振り返ると、『予定通り』、生徒会長、金牧樋春がそこにいた。
◆
前回の反省を活かし、一年生三人の移動距離をなるべく少なくするよう計画していた。
魔戸が一年生教室に近い位置にあるため、いくら行動開始を早めても敵校生徒に見つかってしまう可能性は消せない。
前回は安全な位置で合流することを目的としていたが、今回は目的自体を変えた。敵校生徒が何人襲って来ていようと、とにかく樋春と合流することを最優先目的とした。
一年生三人は、開始と同時に樋春がいる四階を目指して逃げ出し、樋春は逆に、真っ直ぐ一年生教室へと向かってもらった。
結果、想定通りの展開となった。
例え敵わなくても、時間を稼げれば良い。
樋春も真っ直ぐ一階を目指して降りて来てくれるのだから、真っ先に逃げ出す三人より早く、敵とぶつかることもない。
唯一心配だったのは、虹沢透香と龍海権蔵に初手で邂逅し、瞬殺されることだったが、そうはならなかった。
喧しい男子生徒に絡まれただけだった。




