第六章ー12
「ここで出会えたのもなにかの縁だ! 楽しまないか!?」
背後の男は叫び、追いかけて来る。
その体躯は、大柄な博也よりもさらに一回り大きい。
髪の毛はスポーツ刈りで、肌は日に焼けている。学ランのボタンが左右に引っ張られており、盛り上がった筋肉が遠目でも確認できた。
明らかに、体育会系の人間だった。
「赤の彩粒子を使う人って、うるさい人が多いの?」
隣を駆ける綾乃はげんなりした口調で言う。
「君たち! これ以上逃げるというなら、無理やり止めてしまうことになるが、それでも良いか!?」
殺し合いをしているというのに、わざわざ確認を取ろうとする辺り、律儀と言うべきか、それとも単なる阿呆なのか。
そもそも止めると言っても、距離はまだ十メートル以上ある。
仮に、博也のような能力であったとしても、この距離なら捕まることはない。
どんな能力を使おうとしているのか知らないが、やれるものならやってみろ、だ。
「いいのか! いいんだな!?」
呆れるほど、男が叫んでくる。
博也は「しつこい」と吐き捨て、綾乃は「なんなのあの人」とため息をつき。
黒江は動向を確認しておこうと背後へ振り向き――
「喝!!」
吹き飛ばされた。
「うわ!」
異様な衝撃が背中へ伝わって来た。
三人とも、前方へ転倒し、そのまま転げ回る。
「痛っ……なんだ?」
受け身を取り、すぐに体勢を立て直す。
「がはは! どうだ、だから言っただろう?」
男はまだ十メートル先にいた。
遠距離でも使える能力らしい。
「……」
黒江は背中をさすり、感じた衝撃を確かめる。
奇妙な一撃だった。
体へ直接、力をねじ込まれたような、そんな感覚だった。
ビリビリとした痛みが残るが、改造制服を着ていたおかげか、骨が折れるようなことはなかったようだ。
「灰球」
衝撃の正体を考えるより先に、綾乃が攻撃に転じる。
起き上がり、振り返った姿勢のまま、十個近い鉄球を出現させて男へ発射する。
大きさはほんの二、三センチ程度だが、その強度、速度は弾丸と大差ない。彩粒子を使っていても、完璧に見切るのは困難だ。
しかも、この近距離だ。
これを初見で避けることは不可――
「破っ!!」
不可能、なはずだった。
いや、事実、避けてはいない。
しかし、男は綾乃の灰球を全弾、弾き飛ばした。
「がはは、世の中、意外と気合いでなんとかなるものだぞ!」
「……」
声も出ないとはまさにこのこと。
男はこちらへ向けて、手を突き出しただけだ。
他に、特別な動作を行っていない。
なのに、綾乃の灰球を全弾弾き飛ばした。
――コイツの能力は……。
「衝撃波だね」
弾き飛ばされた鉄球を消し、綾乃が呟く。
「俺もそう思った」
「クロは下がってた方がいいかな」
「分かってる」
頷く。
原理は分からないが、男は手を突き出しただけで綾乃の灰球を全て弾き飛ばした。
視認できない以上、黒江には避けようがなく、近づくこともままならない。いくら身体能力が上がっていようと、接近できなければ攻撃することも防御することも難しい。
テンションはふざけているが、強力な能力を持つ実力者だ。
おそらく格上だろう。




