第六章ー10
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小柄な少女と長身の男子。
二人は学校の屋上で夕日を眺めていた。
恋愛小説なら、告白シーンに使えそうな最高のシチュエーションである。
「綺麗だね~」
にこにこと満面の笑みを浮かべる少女。
対して長身の男は、そうですねと淡泊に答える。
「明日もよろしくね」
「ええ、任せてください」
長身の男は、長方形の黒縁眼鏡をくいっとかけ直す。
佇む二人――虹沢透香と龍海権蔵の関係を一言で表すのなら、『社長と秘書』である。
自由気ままに振る舞う透香と、その透香を傍で補佐する龍海。
この二人の強い絆は、他の学校にも知れ渡っている。
「第三ってことは、アレだね、樋春がいるね」
「はい」
「そろそろ、殺したいよね」
ぎょろりと、透香の瞳が動く。
顔は動かず、瞳だけが不気味に動くその様子は、爬虫類を連想させる。
「はい。油断はできませんが」
「分かってる。けど、今まで『逃げに徹されて来たせいで殺しきれなかったけど』、いい加減、決着をつけたいよね~」
「はい」
「ボクと龍海が組んで、やれないことなんてないからね」
透香は口角をあげる。
自信が、小さな身体から溢れていた。
「ええ、透香が本気になれば、第三高校の者たちなど、造作もなく殺せると思いますよ」
龍海も、自信を持って答える。
龍海は知っている。
自身が仕えている虹沢透香という規格外の存在が、どれほど危険で、圧倒的な力を誇っているのか。
無論、敵校主戦力の『天誅・金牧樋春』の実力も熟知している。
彼女は強い。
全保持者の中でも、トップクラスだろう。
彼女が掲げている目標も耳に入っている。
彼女の実力、カリスマ性を鑑みれば、成し遂げられる目標だ。敵ながら、尊敬に値すると感じている。
――この人がいなければ、ですがね。
レンズの先。
のんびりと夕日を眺めている少女、虹沢透香もまた、そんな樋春に劣らぬ驚異的な力を誇っている。贔屓目なしに見ても、彼女は樋春と同等か、それ以上の実力がある。
「今回は、邪魔が入らないといいけどな~」
「そうですね」
「今まで、どのくらい殺したか、覚えてる?」
「……自分も把握はできていませんが、少なくとも、十人程度には上るかと」
「だよね~。今回こそは、逃がさないぞ~」
透香はフェンスに手をかけ、無邪気に言う。
第三高校にとって、金牧樋春は核となる人物だ。
樋春を救うためとあらば、身を挺して守る者たちがいることを、透香も龍海も知っている。
生徒会のメンバーだったり、下級生だったりと、その時によって様々だが、樋春を何度も追い詰めていながら、撃ち漏らしているのはそういう理由だ。
樋春は強い。
それは厳然たる事実として、認めなければならない。
驕りに支配されている状態で勝てるほど、甘い相手ではない。
だからとて、負ける気も毛頭ない。
樋春と同格の透香がいて、そしてなにより、その二人と肩を並べられる龍海がいる。
第三高校の弱みは、樋春を守る気概がある者はいても、樋春と肩を並べて戦える者がいないことだ。
実力だけなら、樋春より強い者はいるかもしれない。
心当たりもある。
では、その者は樋春と一緒に、共闘できるか?
――無理、でしょうね。
龍海の知る限り、第三高校に、樋春と共に連携して戦える者は一人もいない。
唯一、副会長の名が思い浮かぶが、すぐに思考から除外する。
あの副会長は、前線には出て来ない。
これまで、樋春と共に戦ったという情報はない。
「龍海」
「はい」
「景気づけに、やる?」
「いいですよ」
差し出された掌には、麻雀牌が一つ。
転移前、透香はネット麻雀で圧倒的な実力を誇っていた。誰がつけたのか、ギリシャ神話の神、『ハデス』の異名を取っていたらしく、転移した今でも、牌を手放さない。
龍海は、毎回、負けると分かっていても、楽しそうに麻雀を打つ彼女の姿が好きだった。
差し出された牌は、筒子の五。
透香が一番好きな牌だった。




