第六章ー9
◆◇◆
「彼らに言わなくて良かったのですか?」
「なんのことだ?」
とぼける生徒会長に、副会長たる彼女は呆れを隠さない。
「戦闘になったら、あなたとて、平静ではいられないでしょう。また、土下座させられても知りませんよ」
「む……それは嫌だな」
「でしたら――」
「それでも、話さない。話す理由がない。話したところで、どうにもならない。注意すべきことはちゃんと伝えた。問題ない」
反論を許さない口調だった。
一年生たちが去った生徒会室。
副会長職に就く少女は、いつものようにレモンティーを片手に樋春へ意見する。
生徒会のメンバーの中でも、この二人は付き合いが最も長い。
茜色のストールを身に纏う少女は、背後から樋春のポニーテールに触れ、くるくると回す。
「やめろ」
樋春に鋭い視線を向けられるが、少女は意に介さない。
ポニーテールを扇風機のように回しながら会話を続ける。
「虹沢透香と、龍海権蔵……あの二人は、間違いなくあなたを狙ってきます。もし、一年生たちが遭遇し、あなたの関係者だと知られたら――」
「間違いなく、終わりだろうな。あの二人の異常性は、他の誰よりも、あたしがよく知っている。そしてやめろ」
「痛っ……痛いですよ?」
「お前が人の髪の毛で遊ぶからだろう」
樋春は振り向き、副会長の手首をチョップする。
ため息をつき、樋春は立ち上がる。
「なにかあったら、頼むぞ」
努めて真剣に言う。
副会長は一瞬、面食らったような表情を見せるが、すぐに「縁起でもない」と鼻で笑った。
「あなたが負ける? 冗談でしょう。自分でも想像していないことを言わないでください。私が心配しているのは、一年生たちの方ですよ」
「ほう? 最初は一年たちを酷評ばかりしていたお前が、一年たちを心配するなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「また一から人材を見つけて育てるなんて、面倒なことをしたくないだけですよ」
「あー……」
今度は樋春が一瞬、返す言葉に詰まり。
笑う。
「確かに、それは言えている」
「でしょう? ここまで育てて、簡単に死なれては困ります」
「そうだな。彼らには是非とも生き残ってもらいたい」
「そのためには、やっぱり話しておくべきでは?」
「それはやだ。断固拒否する」
二人はそんな会話を交わし、笑い合った後。
「ま、なんとかなるだろ」
「そうですね」
コツンと拳を合わせた。
拳を流れて伝わって来るのは、絶対的な信頼感。
なんだかんだ言いつつも。
二人は、相手が誰であろうと負ける気がしなかった。
……樋春は、無意識のうちに怪我が治り切っていない右足を隠していた。




