第六章ー6
「――と、そんな感じでいろいろあったんだけど、ようやく落ち着いてきたと思ったら、いきなり転移して選定式だよ」
黒江は笑う。
「もう訳わからないよね。ただでさえ、人の生き死に敏感になっていたのに、唐突に選定式が始まって、目の前で同級生たちが虐殺されて……完全にパニックだったよ。そこへ、絶対的な力を持つ会長が現れて、『選定式を変える!』って宣言してきたんだ。
今考えると、少し安易に決断し過ぎたかもって思うけど、後悔はしてない。あの時、会長の言葉に心が動いたのは確かだし、今だってそうだよ。会長の言葉には、重みがある。あの人は、本気で変えようとしてるって、分かるから。絶対に譲れない信念があるとかじゃないけど、俺は俺なりに、こうするって決めて、頑張ってるつもりだよ」
黒江が話し終えると、綾乃は「そっか」と一言呟いて、ようやく視線を外す。
不思議だった。
黒江はこれまで、博也にすら、こうして自分の気持ちをまとめて話したことはなかった。姉が自殺した理由についても、ここまで詳しく、他人に話したのは初めてだった。
相手が綾乃だったからか、それとも選定式前で、気持ちが高ぶっているからか、それともその両方か。
黒江自身も、どうして綾乃へこんな話をしたのか分からなかったが、どことなく、胸の内がすっきりした気がした。
「綾乃」
呼びかけると、再び目が合う。
今度は、目を逸らさなかった。
「俺のことはともかく、綾乃は、大丈夫なの?」
「……だから、大丈夫ってなにが? 明日のことなら――」
「佳那のこと。本当に割り切れてるの?」
自分のことを沢山喋って、気分が楽になったからだろうか。
先ほどまでが嘘のように、するりとその言葉が口から出た。
黒江は、「そのことは前にも話したじゃん」とか「もう大丈夫だから気にしないで」とか、そんな返答を予測した。
現実は、違った。
「……」
黙った。
綾乃は、完全に沈黙した。
「えっ……と?」
聞いた黒江が戸惑うほど、綾乃はあからさまに、顔を背けた。
左側の長い髪の毛が邪魔で、表情は伺えない。
――あれ? もしかして、地雷を踏み抜いた?
黒江は綾乃の様子がおかしいことに気付くと同時、すぐに謝罪体勢に入る。
「あ、いや、ごめん。もし答えたくないなら答えなくてもいいんだよ。ちょっと気になっただけだから」
あははと全く誤魔化せていない作り笑いを浮かべ、
「あ、そろそろ休まないとだよね、明日も早いし。じゃあ今日はこの辺で――」
なんて。
結局、いつも通り、最後の一歩を踏み込まずに退散しかけて。
「……そういうトコなんだね。あんたの悪いとこ」
綾乃本人に引き止められた。
綾乃の言葉は、黒江の心にグサリと突き刺さる。
「クロ、相手に質問しておいて、勝手に答えを決めつけて退散するのは良くないよ。相手に失礼だし、クロ自身も損するよ」
「う……仰る通りで」
綾乃は左側の髪の毛をかき上げて、目だけをこちらに向けて来た。
「私はクロのお姉さんのことは知らないけど。……そういうとこがあるから、守らなきゃって思われてたんじゃないの? もっと自信を持って、ちゃんとしていればいいのに」
ぐうの音も出ない。
その通りだ。
そんな自分を、直したいと思っているのだ。
「でも、ちょっと卑怯じゃない?」
「ん? なにが?」
彼女の瞳には、雨の気配があった。
「この話の流れでそんなこと質問されたら、答えないわけにはいかないじゃん」




