第六章ー5
「どう、って?」
「そのままの意味だよ。ちょっと前にヒロにも聞いたんだけど、しっかり考えているみたいだったから、クロはどうなのかなって」
「あー……」
博也は、確かにそんな節がある。
はっきりと聞いたことはないが、博也は確固たる信念がありそうだと黒江も感じていた。
対して、黒江はというと。
「特に、深い理由なんてないよ」
綾乃の強い視線から、目を逸らしたまま黒江は答える。
「話したことなかったっけ? 俺、姉がいるんだけど」
「え、初耳なんだけど。そうなの?」
「うん、この世界へ来る少し前に死んじゃってるけど」
「あ……ごめん」
「いいよ、気にしなくて。で、その姉なんだけど……なんで死んだかっていうと、自殺したんだ」
「自殺?」
「そう。学校で凄くいじめられていたみたいでね。俺も、親も、誰もそんなこと気付かなかったし、気付けなかった」
黒江の姉は、優等生だった。
教師からも親からも、弟からも慕われていた、素敵な人だった。
素敵で、家族想いで――なにより、弟想いだった。
両親が共働きだった真宮家において、一番幼かった黒江は、親よりも姉を頼りにしていた。
姉もそのことを自覚し、良い姉であることに努めていた。
姉にとってもそれは苦痛ではなく、弟のためならばと、両親に代わって家事を行い、弟の面倒を見て、その上、成績も常に上位だった。
親も黒江もそんな姉のことを信頼し、姉の心配をしなかった。
その裏で、いじめられていることなど、誰も想像していなかった。
家族想いで弟最優先の生活を送っていたために、同級生たちからは『ブラコン』だといじめの標的にされた。
それでも姉は、自分は間違ったことをしていないと信念を貫き、家族の前では『良き姉』を、学校では『優等生』を演じ、自分の信じる道を歩んでいたらしい。
しかしそんな姉の姿は、同級生たちからさらなる反感を買い、いじめはエスカレートする。
亡くなる直前、姉は着替え中の姿を同級生たちに撮影され、SNSにアップされた。
その画像は瞬く間に拡散し、姉は好奇の視線に晒されたそうだ。
姉にとって、それは我慢の限界を超えていた。
撮影した者たちを特定し、凶器を使って半殺しにした。
そしてその数時間後、遺書を残し、姉は自殺した。
遺書には、いじめがあったことや、それに関する経緯の他に、『良き姉としてあるまじき行為をしてしまいました』、『両親に顔向け出来ません』といった反省の言葉が多く並べられていた。いじめを行った者に対する憎しみよりも、姉にとっては、怒りを抑えきれず、他人を傷つけてしまったことへの後悔や自責の念が強かったのだ。
黒江は、そんな姉の苦悩に全く気付けなかったことを悔いた。
こんなことになるのなら、姉の影に隠れて息を潜めているのではなく、姉よりもっと大きな存在になって、姉を守れるくらいの気概を持てば良かったと、激しく後悔した。




