第六章ー3
「では、二人の詳しい情報を話すよ」
樋春はそれから三十分近くかけて、虹沢透香と龍海権蔵の、より詳しい情報を一年生へ話した。
「――以上だ。質問はないかな?」
聞けば聞くほど、太刀打ちできないと思わされた。
能力だけなら、ここにいる誰よりも強力で厄介な二人だった。
「君たちにもう一つ、話しておくことがある」
樋春はそこで席へ戻り、深紅色の液体を口に含む。
樋春は口の中で十分に味わった後、ごくりと喉を鳴らした。
はあっと息を吐き、樋春は言う。
「今まであえて会わせることはして来なかったが、次の選定式で生き残れたら、君たちに生徒会メンバーを紹介したいと思っている」
「それって……」
黒江はすぐに樋春の考えを察する。
樋春も「そうだ」とすぐに頷き返す。
「君たちを正式に、我々の仲間として迎え入れたいと思う」
樋春の仲間――つまり、『選定式を変える』計画の、大切な一員として加えてもらえるということだ。
黒江たちはこれまで、「まずは生き残ることだ」と言われ、それに従ってきた。
黒江たち自身も第一目標は『生き残ること』であり、それ以上を望むことはしなかった。
ただ、その裏側でなにが行われているのか、気になっていたのも事実だった。
正直なところ、現段階では樋春が目標に掲げる『選定式を変える』という壮大な計画について、意識が追いついていない。佳那を失った悲しみ、喪失感は胸の内に残っており、黒江たちにとっては選定式を変えることよりも、『これ以上仲間を失わないコト』の方が目標としては上にある。
その反面、樋春が生徒会メンバーと、どれほど綿密に計画を練っているのか、なんとなく察していた。
樋春は毎日、黒江たちの特訓に付き合った後、必ず生徒会室に残っている。
綾乃に一度、樋春が女子寮へいつ帰っているのか尋ねたことがあるのだが、綾乃はこう言っていた。
「樋春さんを寮で見たことなんか一度もないよ」
と。
樋春はおそらく、生徒会室で寝泊まりしている。
ひょっとしたら、他の生徒会メンバーも同じかもしれない。
――選定式を変える――
そんな難題へ挑む、第三高校生徒会の皆さんは、自分たちなんかとは覚悟が違うのだと思い知らされていた。
そんな生徒会へ、樋春の推薦付きで入れてもらえるのだ。
黒江たちが想像しているよりも、ずっと過酷なのだろうが、光栄であることに違いなかった。
隣に座る博也も、テーブルの下でぐっと握り拳を作っていた。
「あの、樋春さん」
しかし、申し訳なさそうに声をあげる者が一人。
「私は――」
「ああ、いい。分かってる。君は生き残ってから決めてくれ」
なにか言いかけた綾乃を、樋春は優しく制する。
綾乃はすみませんと頭を下げた。
綾乃はもともと、『生き残りたい』という目的でここにいる。
樋春や生徒会に対して悪い印象は持っていないだろうし、『選定式を変える』ことに関しても批判はしないはずだ。『なにかあったら協力しよう』、くらいには思っているだろう。
とはいえ、『協力する』のと『一緒に行動を共にする』のとでは、大きく違う。
今まで、樋春にそのことを話してはいないはずだったが、一年生たちを誰よりも理解し、傍で見守ってくれている樋春が、気付かないはずもなかった。
大きな目標を掲げる生徒会と行動を共にするということは、その分、リスクも上がるはずだ。
生き残ることだけを目的としている綾乃からすれば、安易に決められないコトだろう。
「まあ、そう深く考えないで欲しい。何度も言っているが、とにかく生き残ることが最優先だ。黒江君と博也君も、生き残った後、もしやめたいのであれば無理だと申し出てくれ」
こっちとしては困るけどね、と樋春は付け足す。
博也と顔を見合わせるが、ここに来て、やめたいもなにもない。
余程のことがなければ、二人は参加するつもりだ。
「よし、それじゃあ――」
さらに数点、細かい打ち合わせを行って。
「解散! 今日はゆっくり休みたまえよ」
樋春のその言葉で、黒江たちは生徒会を後にした。




