第六章ー2
「さて、ではご希望のミーティングを始めようか」
樋春はテーブルに腕をつき、手を組む。
その表情は、極めて真剣なものだった。
「まず今回発表された、国立転移第八高等学校だが――現在、学校値は第四位、完全に格上だ」
「今まで戦ってきた二校よりさらに上、ですよね」
「そうだ。厳しい戦いになるのは間違いない」
樋春は断言する。
先日発表された第三高校の学校値は十二位。
少しずつ上がってきているが、上位十校にはまだ入れていない。
「第八高校と対戦するにあたり、君たちに注意すべきことが一つある」
樋春は席から立ち上がり、黒江たちの正面、生徒会室の右側へ移動する。そこに置かれているホワイトボードへ、名前を二つ、書き込んだ。
「虹沢透香と、龍海権蔵。この二人に会ったら、絶対逃げろ。いいな」
樋春がわざわざ人物名を出して注意を促してきたのは始めてだ。
綾乃が「どういう人たちなんですか?」と質問する。
「第八高校の稼ぎ頭だ。第三高校で言うところの、あたしや生徒会メンバーと同じ立ち位置の人間だな。常に二人一組で行動していて、あたしも、何度か戦ったことがあるんだが……」
樋春は口をへの字に曲げ、
「あたしと同格の強さだ」
そう言った。
一年生三人の頬が引きつる。
下手な比喩表現をされるより、余程、分かりやすい説明だった。
樋春と同格。
その言葉だけで、どれほどの存在なのか理解できる。
前回、樋春は第四高校の主力生徒たち六人を相手にして、深手を負ったとはいえ、見事、退けている。
その樋春と互角ということは、天地がひっくり返っても一年生三人が敵う相手ではなかった。
「会長、一ついいですか」
博也が手を挙げる。
「なんだい?」
「逃げろと言いますが、会長と同じレベルの人間なら、出会ってしまった時点で終わりじゃないですか? 簡単に逃がしてくれるとは思えませんけど」
樋春は「そうだね」と頷く。
「博也君、良いところに気が付いたな。逃げろ、というのは心構えの話だよ。あたしがいない時に出会ってしまったら、間違いなく、殺されるだろうね」
「――」
ぞくりと、緊張が走る。
黒江は無意識のうちに生唾を飲んでいた。
樋春はよく冗談を言うが、嘘を言うことはほとんどない。
本当に、危険な存在なのだろう。
「そうだな……言い直そう。もし、あたしと合流する前に出会ってしまったら、全力で時間を稼げ。なんとしてでも、あたしが到着するまで時間を稼げ。どんな方法を使ってもいい。絶対に、真正面から戦ってはならないよ」
「分かりました」
即答する。
黒江たちも成長しているが、未だ、樋春の領域までは達していない。相手が樋春と同格であるのなら、自分たちがやるべきことは決まっていた。
ここで、血気盛んに「戦わせてください」などと言っているようでは、確実に命を落とす。
二度の選定式を経験した黒江たちは、なにが生き残るための『最善』なのか、樋春に言われるまでもなく理解し始めていた。




