第六章ー1
「必殺技を考えろ」
「は?」
「え?」
「今更?」
明日から選定式だ。
今回の対戦校が発表され、黒江、博也、綾乃の三名は、最終ミーティングを行うため、生徒会室へ集まっていた。
三人の前には珍しく、普通のレモンティーが置かれている。
樋春によれば、副会長からの差し入れだとか。
「この間の模擬戦で感じたことだが、技名を付けているのはあやのんだけみたいじゃないか」
「あやのん?」
「博也君の『点火』は技名ではなく、能力に付けた名前をそのまま叫んでいるだけだし、黒江君に至っては『はっ!』とか『よっ!』とか『とりゃ!』とか、間抜けな声を出して攻撃しているじゃないか。少しはあやのんを見習いたまえよ」
「いや、あやのんってなんですか。やめてください。気持ち悪いんですけど」
綾乃は本気で嫌そうな顔するが、樋春は完全に無視していた。
樋春は綾乃の言葉を無視して続ける。
「誤解のないよう言っておくが、ふざけているわけじゃないよ。技名を付けるのは悪いことじゃない。戦闘中、ここぞ、という場面が訪れた時、ただなんとなく技を繰り出すのと、『これなら絶対に勝てる』と自信を持って技を繰り出すのでは、全く違ってくる。スポーツをやっていた者なら分かるんじゃないか?」
「あー、確かに」
頷いたのは、博也だ。
バレー部所属の博也には思い当たる節があるようだった。
「技名ってのはちょっと分からないですけど……自分の得意なコトとか、自信を持っていることに関しては、やっぱり他のプレーの時と違って気合いが入りますね」
「そうだろう? だから、男子諸君も技名を考えて欲しんだよ。今まで特訓でやってきたものでもいいし、これから、その技を作ってもいい。ただ、ここぞって時に繰り出せる、最強の必殺技を考えて欲しいんだ」
「なるほど」
黒江は納得し、これまで教えられてきたことを思い出――
「って、今する話ですか!」
思い出しかけたところで、突っ込みを入れていた。
こんな話をするために集まったのではない。
明日の選定式のミーティングをするために集まったはずだった。
「樋春さん、必殺技の件は置いておくとして、今は明日の選定式のことを話しませんか?」
話題に参加していなかった綾乃も同意してくれる。
樋春は「えー」とつまらなそうな顔をしたが、自分の目の前に置かれたドリンクを一口飲み、気持ちを切り替えた。
ちなみに、今日、樋春が飲んでいるのは『梅干し&唐辛子』と書かれた、毒々しい色をした飲料水だ。
副会長から、レモンティーの差し入れが樋春にもあったのだが、「面白くないから嫌だ」と即、冷蔵庫へしまっていた。
この人はどうして、わざわざ変な味に挑戦したがるのか。




