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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第五章ー不協和音
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第五章ー15

 大仏は衝撃を受け止め切れず、下方へ吹き飛んでいく。

 黒江はそれを見送り、

「あ、落ち――」

「おっと」

 落ちそうになったところを、綾乃に支えられる。

 声が聞こえた方を見ると、綾乃と同じく、大仏に乗って上空へ飛んできた樋春の姿がある。

「やー、参った。人の能力を足場にして跳んで来るかね?」

 軽い調子で言う彼女に、「博也が考えたんだよ」と教えてやる。

「え、嘘。あの何も考えてなさそうな熱血馬鹿が?」

「その反応は可愛そうじゃない?」

 二人で笑ってから。

「で、なんだっけ? ヒロが話あるって?」

「ああ、うん。よく分かんないけど、そんな感じだったよ。綾乃のことを馬鹿とかなんとか言ってたね」

「はあ!? アイツにだけは言われたくないんだけど……」

 憤慨する綾乃に腕を支えられ、ゆっくりと下へ降りて行く。


 ――良いきっかけになった、のかな?


 不仲が目立っていた二人、綾乃と博也。

 生き残るためには、選定式前に解消しておく必要があった。

「……」

 未だ、上空に浮いたままこちらを眺めている樋春を見上げて、さすがだなと黒江は感心する。

 樋春の思惑通りなのだろう。

 一緒に戦ってよく分かった。

 二人は、互いのことを考えていなかったわけじゃない。

 むしろ、ずっと意識していたはずだ。


 足りなかったのは、きっかけだ。


 樋春は、話すきっかけさえ与えれば、すぐに解消できると踏んでこの模擬戦を持ちかけたのだろう。

「……」

 気は緩めない。

 佳那のこともある。

 油断したらその瞬間、命を落とす。

 それが選定式だ。


 だけど、ここまで戦えるようになって。

 仲間との絆も深まって。


 なんとかなると思うのは、傲慢なのだろうか。


 ――今度こそ誰も死なせず、乗り切りたい。


 緩んだ頬とは正反対に、黒江は、心の中で拳を握りしめた。



     ◆



 佳那のことが好きだとかそうじゃないとか、誤解だとか余計なお世話だとか、ごちゃごちゃ話している一年生を横目に、樋春は一人、嘆息する。

 概ね、想定通りの結果だった。


 ――やはり、実戦でなければ見定めるのは困難、か。


 胡坐をかいた大仏を宙に浮かせ、その掌の上で、さらに胡坐をかいて座る彼女は、一人の一年生を注視する。

 漆黒の彩粒子を扱う男子生徒、真宮黒江。

「不確定要素はなるべく排除したかったが、仕方ない」

 呟く。

 綾乃と博也の不仲に関して、樋春はさほど気にしていなかった。

 佳那が抜けてしまったことで、水面下でくすぶっていたものが表に現れ、爆発しただけだ。二人ともやる気がないわけでもなければ覚悟が足りないわけでもない。

 博也が彩粒子を使って殴りかかった時はヒヤリとしたが、根っこの部分は単純だと分かっていた。

 そちらは、想定通り、事なきを得た。


 それよりも、樋春にとって見過ごせない存在なのが黒江だ。


 前回の選定式でスナイパーを殺害した際、近くにいた博也、綾乃両名の話では、『記憶が飛んでいた』という。

 激怒し、頭に血が上ると周囲が見えなくなる人間は一定数いる。

 経験がある者も多いだろう。

 生徒会にもそういう人間はいる。


 ではその中で、記憶が飛ぶほどの者はいるか。


 ほとんどいないはずだ。

「なにか、妙な事態を引き起こさなければいいが……」

 樋春が危惧するのは、二次被害。

 命がけの戦いをしているのだ。

 自分も含めて、いつ、誰が死ぬかなど、誰にも分からない。

 これからも近しい人間が死ぬことはあるだろう。

 そうなった時、黒江がどんな行動を取るのか。

 一人で勝手に暴走して、相手を殺そうとするのだろうか。


 ――あたしが近くにいれば、止めることもできるが。


 佳那が死んだ直後、黒江が狙ったスナイパーは、おそらく一年生だ。ろくに実戦経験を積んでいなかっただろう。

 何事もなく殺せたのは、運が良かった。

 もしもそれが、何度も死線を乗り越えている三年生だったら、そうはいかない。返り討ちに合うか、下手をすれば、綾乃や博也を巻き込んで全滅していた危険すらある。

 今回、このタイミングで模擬戦を組んだのは、不仲を解消するためだけではなく、黒江の戦闘力を計測するのと、あわよくば『スイッチが入った時』の行動を予測するためでもあった。


 結果は、不発。


 綾乃と博也の不仲を考えれば、あるいは、なにかが起こってくれるかもしれないと期待していたが、こればかりはどうしようもなかった。

 樋春とて、一年生たちが死んでも構わないなどと思っていない。

 選定式を変えるという目標を達成するためには、彼らの協力が不可欠なのだ。


 次に迎えるのは、彼らにとって、三度目の選定式。


 正念場だ。


 ――生き残れよ。


 樋春は、一年生たちにエールを送った。

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