第五章ー12
綾乃は、本気でそう考えた。
その直後。
脳裏に博也の言葉が響く。
『お前、やる気ないだろって話をしてんだよ』
この世界が漫画ならば、血管でも浮き出て、ビキビキと音が鳴ったことだろう。
「やる気くらい、あるっつーの」
博也がどうして自分ばかり敵視するのか。
綾乃は『本当の理由』に気付いていた。
やる気がないとか、佳那を失ったのに気にしている様子がないとか、それは口実に過ぎない。
『どうせ死ぬなら、綾乃が死んでおけば良かった』
そんな風に思っているに違いなかった。
口には出さないだろう。
正義感の強いあの男が、そんな言葉を口にするはずがない。
それが分かるくらいには、距離を縮めて来たつもりだ。
「でも、ね」
女のカン、というやつだろうか。
理由は分からないが、博也が佳那へ、好意を抱いていることはなんとなく察していた。
どんな時でもマイペースに米粉パンをほうばるあの少女は、魅力が詰まっていた。
親しい友人が亡くなったというのに、すぐに切り替えて、『仕方ない』などと流してしまえるような人間より、余程、彼女は魅力的な存在だった。
「だったらなおさら、退きたくない、かも」
博也が誰を好きになろうが知ったことではない。
毎日、毎晩、練習を重ねている博也にしてみれば、やる気がないと見られても仕方ないとも思う。
だけど、『自分は絶対正しい』という顔をして――本心を隠して――理想を押し付けて来るようなヤツの、好きになんかさせたくはなかった。
綾乃は、腹をくくる。
壁陣の影に隠れる位置へ、一メートルほどの鉄球を出現させる。
それを、ゆっくり、慎重に動かして――
「――っ!」
自身へ、ぶつけた。
◆
「ん?」
拘束の糸が、途切れるような感覚が、伝わって来た。
どうやったのかは分からないが、綾乃が拘束を外した。
「黒江、『灰霧が動く』。警戒しろ!」
「分かった!」
博也が叫んだ、その数秒後だった。
「げっ」
思わず、そんな声が漏れてしまった。
綾乃が鉄球に乗って、宙へ飛んでいった。
鍛錬場の天井は高い。
二十メートルほど上昇したところで、綾乃は動きを止めた。
「あの野郎」
毒づく。
博也の彩粒子は、動きを止めるだけだ。
上空に浮かんでいる相手に作用しても、引きずり落とすことはできない。
加えて、黒江の能力でもあの高さには届かないだろう。
いくら跳躍力が上がっていても、二十メートルも一気にジャンプできるわけじゃない。あの高さまで跳ぶためには、最低でも、二、三段は必要だ。
綾乃はそれが分かった上で、空へ逃げたのだろう。
――よりによって上空へ逃げるとか、煽ってるのか?
ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。




