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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第五章ー不協和音
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第五章ー11

     ◆



 勝ちを確信する黒江たちとは反対に、綾乃は冷静だった。

 樋春の意図は分かっているつもりだ。


 お前では黒江たちには勝てないと理解させるためだろう。


 練習メニューはこなしている。

 生き残るために、一生懸命努力している。

 でも足りない。

 それだけではダメなのだ。

 樋春だって、練習メニュー以上のことをしろと言っているのではないだろう。

 そんなことは熱血馬鹿がすることだ。


 大切なのは、気概の話だ。


 戦っていれば、『ここぞ』という場面は必ず訪れる。

 その時、モノを言うのは戦闘技術じゃない。

 いや、戦闘技術も必要ではある。

 ないよりはあった方が良いだろう。

 だけど一番じゃない。


 一番は、『ここで決める』という気概だ。


 精神論ではない。

 人間の肉体は、気の持ちようによって、引き出される力が大きく変わる。

 勢いや気合いが大切な時もあるのだ。

 その点において、博也に負けている自覚はある。


 ――だからって、負けたくないんだよね。


 動きを止められたからどうした。

 能力が使えなくなるわけではない。

「灰球・壁陣へきじん

 綾乃はとどめを刺そうと接近してくる黒江と自分の間に、一瞬で『灰球の壁』を築き上げる。

 五十センチほどの大きめ鉄球だ。

 周囲に数十個積み上げることで、巨大な鉄の壁となる。

 肉体強度が増している黒江も、所詮は人の体だ。

 鉄の塊が積み上げられた強固な壁を崩せはしない。


「こんの!」


 と、思ったのだが。

「いやいや、クロ、馬鹿力も大概にしてよ……」

 そうでもないらしい。

 ドゴンという音と共に、鉄球が一つ、壁陣から外れて床に落ちた。

 続けざまに、二度、三度と強烈な蹴りが炸裂し、壁陣が破壊されていく。

「でも」

 予想以上の身体強化に驚かされたが、一度に外される鉄球は一つずつだ。

 ならば、問題はない。

 綾乃は蹴り落とされる度に、落とされた鉄球を消し、落とされた部分に鉄球を補充する。

「あとは、ヒロの拘束を抜けられれば」

 黒江の攻撃は防げた。

 残る問題は、体を拘束している博也の『点火』だ。

 壁陣が目隠しとなって、向こうからは姿が見えていないはずだが、一向に拘束が解かれない。

 博也の能力は相手の姿が見えなくても、彩粒子の届く圏内にいて、位置が捕捉できていれば発動できる。

 これを解除するためには、多少強引にでも、動くしかない。

「……て、言ってもね、どうしよっかな」

 打開策がないわけではない。


 灰球で、自分を撃てばいい。


 博也が今、能力で縛っているのは綾乃だけだ。

 向こうから見えない位置で、灰球を使用し、自分にぶつければ、簡単に移動できる。

 威力も調整できる。

 改造制服だって着ている。

 無傷に近い状態で移動できるだろう。


 ――でも、痛いだろうなぁ……。


 動かない体を、鉄の球で撃って移動させるのだ。

 痛いわけがない。

 現状、黒江たちに壁陣を突破する力はない。

 もしこのまま膠着状態が延々と続くようなら、いつかは樋春が止めに入るだろう。

 正直、それでも良かった。

 無理をして、なにかあっても、樋春が止めてくれることくらい分かっている。

 じゃあ今、無理をする意味があるのか。

「……」

 ない気がする。

 黒江と博也が、自分が想像していたよりもずっと強いことは、もう十分、理解できていた。

 きっと、凄く努力したのだろう。

 練習したのだろう。

 それを、感じられただけで十分だ。


 ――あとは、スマートに、流そうかな。


 綾乃は、本気でそう考えた。

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