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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第五章ー不協和音
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第五章ー10

「黒江、俺が全部止めてやる。突っ込め」

「分かった」

 鍛錬場の中央で、博也と並び立ち、綾乃と向かい合う。

 鍛錬場内には、上級生と思しき生徒が他にもいたのだが、樋春が声をかけると全員、脇へどいてくれた。

 この辺は、生徒会長、恐るべし、だ。

「あたしもずっと見ているし、マズイと思ったら止めに入るが……致命傷になるような攻撃だけは絶対するなよ。いいな」

 樋春から忠告を受ける。

 言われるまでもない。

 特訓中だって打撲や擦り傷、切り傷程度のものはそれぞれ、何度も受けているし、作っている。普段から、樋春が止血用の軟膏や、打ち身用の塗り薬、痛み止めなどを常に持参してくれているが、傷を完璧に直せるものではない。

 大怪我をしてしまったら選定式に影響する。

 いくら実戦に近い模擬戦でも、それだけはNGだ。

「よし、やるぞ」

 樋春のかけ声で、一年生三人は構える。

 黒江は左足を前へ、右足を後ろに置き、開始と同時に走り出せる態勢を取る。

 博也は右手を前へ突き出し、『点火』の構えを取る。

 対する綾乃は構えらしい構えを取らない。

 いつものことだ。攻守ともに盤石な能力を持つ彼女は、その性格も相まって、対応力が半端ではない。構えを取らないことこそが、彼女の強みであり、彼女自身の『構え』でもある。

「――」

 樋春が大きく息を吸う。

 そして、


「始め!」


 声と同時、まず動いたのは、綾乃と、博也。

「点火!」

「灰球」

 綾乃の周囲に鈍く光る十センチほどの鉄球が十数個出現。

 猛スピードで飛んで来る。

 対して、博也の右手からは、赤色の彩粒子が溢れ出す。

 博也の『点火』は、対象の動きを止める能力を持っている。

 それは、人物に限らない。

 例え彩粒子の能力によるものであっても、博也が『対象』と認識し、それが他人を傷つける『悪』ならば、必ず止められる。

「毎回思うけど、それ、チートじゃない?」

 綾乃がぼやく。

 放たれた鉄球は、博也の手から溢れ出した赤色の彩粒子に触れた途端、動きが鈍くなり、やがて、制止する。

 脅威的な能力であるのは事実だが、博也の『点火』にはいくつか欠点がある。

 博也が『悪』と認識できないものには効果がないことの他に、


 彩粒子に触れなければ動ける、ということも挙げられる。


 もちろん、彩粒子から逃れるのは簡単なことではない。

 彩粒子は粉状の上、博也の能力使用時には、博也の意思次第で拡散する場所が変わる。拡散するスピードこそ速くはないが、時間が経てば経つほど、博也の彩粒子で場を埋め尽くされる。

 屋外であれば逃げ続けることも可能だろうが、屋内であれば、いつかは必ず捕まる。

 そんなことは、綾乃も重々、承知の上で。

「博也!」

「うお!?」

 気付くのが少しでも遅れていたら、やられていた。

 背後に灰球が浮かんでいた。

 弾丸と変わらない速度で飛んできたそれを、博也とともに、横っ飛びでなんとか回避する。

 博也が対象と認識する前に攻撃されると、止めることも叶わない。

 綾乃は仲間の欠点もよく把握していた。

「黒江、行け!」

「了解!」

 だが、やられっぱなしというのも癪だ。

 博也の彩粒子が広がって来たところで、黒江は駆け出す。

 彩粒子による身体強化では、時速六十キロ程度が限界だが、黒江の身体強化は、それを遥かに凌駕する。

 

 時速、九十キロ以上。


 人が出せる限界速度を二段階も三段階も高めた、規格外のスピードで綾乃に迫る。

「あんたのそれもチートっぽい!」

 十個以上の鉄球が、黒江めがけて飛んでくる。

 灰球の速度は、黒江の最高速度よりも、さらに速い。

 彩粒子の強化だけでは、灰球を全て見切るのは不可能だ。五感の向上に加え、空間把握能力や反射神経も底上げされるが、それでも弾丸を見切れるほどの強化にはならない。


 黒江は別だ。


 真っ直ぐこちらへ向かって来るだけの弾丸など、数が多かろうと、見切るのは容易い。

 体勢が崩れていたり、逃げ場がないほどの物量で攻撃されたりすれば話は別だが、そうでないなら――

「ああもうっ!」

 綾乃が舌打ちする。

 発射された灰球を、黒江は右へ左へ細かく動き、最小限の動作で回避、漆黒の彩粒子が地を這い、灰色の間合いへ侵入する。

 綾乃はぎりぎりまで灰球を飛ばし、距離を取ろうと粘っていたが、接近してしまえばこちらのものだ。

 いくら対応力が高い綾乃と言えど、黒江の身体強化には着いて来れるはずがない。

「もらった!」

 接近した勢いそのまま、黒江は右の拳を振り上げ、綾乃へ叩きつける。

 いつぞやのスナイパーは、この一発だけで沈んでいる。

 樋春に止められることも頭の片隅にあったが――


 黒江の拳は、空を切った。


「そんな大振りに当たらないよ」

 空を切った、だけじゃない。

 綾乃は左後方へ体を捻り、黒江の攻撃を避けると、下から抉るように拳を突き出す。

「ぐっ」

 いくら素早くても、避けられないタイミングがある。

 綾乃の拳が、黒江の腹へ突き刺さった。

「え!?」

 が、驚きの声をあげたのは綾乃の方だ。

 黒江は、綾乃の拳が体に当たる寸前、攻撃のために踏み込んだ左足で、地面を蹴っていた。

 綾乃の拳は確かに黒江の腹に突き刺さったが、黒江が直前に踏み込み、宙へ飛んだことで、上へ押し上げるだけのものとなる。

 ダメージは、ほぼ皆無。

 黒江は綾乃の上方、数メートルへ舞い上がる。

「だったら!」

 綾乃は瞬時に切り替える。

 上空へ飛んだ黒江へ向けて、灰球を一斉掃射する。

 その数、およそ三十。

 あのままカウンターをもらっていたらただでは済まなかっただろうが、空中に浮いていては、避けることも防御することも容易ではない。

 身体能力がいくら向上していても、その動きは極端に制限される。


 ――まあでも、灰球が通常通り機能すれば、だけど。


「点火!」

 黒江の思惑通り、博也が灰球を止めてくれる。

 視界に赤色の彩粒子を捉えていた。

 博也の彩粒子は黒江たちを中心に密度を上げており、黒江がいる上空まで達していた。

 黒江は動きを止めた灰球を尻目に、悠々と着地する。

 そして、再度仕掛ける。

「このっ」

 綾乃の体さばきは目を見張るものがある。

 身体能力において、明らかに上回っている黒江を相手に、一歩も引かなかった。

 避けて、受けて、カウンターを繰り出す。

 一撃必殺の力を持つ黒江だからこそ押せているが、そうでなければ、軽くいなされているだろう。

 けれど。


「点火!」


 目まぐるしい攻防も終わりを告げる。

 少しずつ後退し、博也の彩粒子を避けていた綾乃だったが、ついに赤色の彩粒子に捕まった。


 綾乃の動きが、封じられる。

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