表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第五章ー不協和音
54/131

第五章ー6

     ◆



 屋上のドアを開けると、強い風が吹き付けてきた。

 実際に来てみるのは初めてだ。

「えっと……?」

 ここへ来るまで、あちこち視界を巡らせてみたが、綾乃の姿はなかった。

 黒江はダイヤの中央部分に立って、ぐるりと見まわしてみる。

 綾乃はやはり、慰霊碑の前にいた。

 三、四メートルほどの黒く、大きな石碑の前で彼女は腰を下ろしていた。

 ダイヤの上部。角にあたる部分だ。

 近づき、なにをしているのかと確認すると、

「……」

 綾乃は慰霊碑に向かい、手を合わせていた。

 静かに、厳かに。

 黒江が来たことにも気付いていないようだった。


 ――意外だな。


 そんなことを言ったら怒られるかもしれないが、黒江は手を合わせる綾乃を見て、率直にそう思った。

 黒江にとって、綾乃という少女はとにかく明るく、そして図太く、器用でノリが良い女の子だ。

 慰霊碑に手を合わせてお祈りする姿は、普段見る彼女とは、印象が違いすぎる。

 風が吹くたび、銀色にも見える髪の毛がさらさらと揺れる。

 普段の彼女を知っているからこそギャップに驚かされるが、今の姿だけを見れば、どこか遠い国のお姫様のような、そんな神聖な雰囲気すらある。

 見惚れていた、なんて口が裂けても言えないが。

 それから何分間か、綾乃がこちらに気付くまで、声をかけることすら忘れてしまっていた。

「……?」

 綾乃が、振り返る。

 これまた珍しく、彼女はきょとんとした顔で固まる。

「……」

 対する黒江も、なんと言葉を発するべきか迷い、数秒固まった。

 ぱちぱちと目を瞬かせる綾乃に、黒江は、


「えっと……奇遇、だ、な?」


 歪な笑顔を浮かべ、なんとかそれだけ言った。


「な――っ!」


 はっと我に返った綾乃は、わたわたと慌て始める。

「なっ、クロっ! え、どうして、え?」

 顔や髪の毛に手をやり、ばたばたし始めたかと思うと、どんどん顔が赤くなっていく。

 黒江はその反応を、怒っているものかと思った。

 だから、咄嗟に言い訳の言葉が口をついて出た。

「あっ、いや、違う、違う! 下で本を読んでいたら、綾乃の姿が見えたから、何をしているのかと着いてきただけで、ずっと後を付けていたとか、そんなことは…………あれ?」

 必死に言い訳をしてみたが、一向に、綾乃からの反応がない。

「……んん?」

 冷静に、彼女を観察してみると、


「~~~~~~~っ!」


 なにやら、顔を真っ赤にして、俯いていた。

 これは、恥ずかしがっている、のだろうか。

「綾乃? どうした?」

「別に」

「別にってことはないでしょ」

「いいから! 放って置いて!」

「いや、え? そんなに恥ずかしがること? 慰霊碑に手を合わせるなんて、むしろ良いことじゃ――」

「うっさい! 黙れ! 死ね!」

「死!?」

 衝撃的な言葉が飛んできた。

 仕方なく黙る。

 いや、しかし。

「~~~~~~っ」

 不覚にも、可愛いと、思ってしまった。

 もともと綾乃は、目がぱっちりとしており、小顔で可愛らしい顔立ちだ。髪型が変わり、少し大人びた雰囲気にはなったが、基本的には可愛い寄りの雰囲気を纏っている。


 その綾乃が、顔を真っ赤にして、羞恥心に耐えている。


 なんというか、小動物が震えて怖がっているような。

 保護欲を掻き立てられるような。

 そんな気がしてくる。

 可愛い。

 本当に、可愛い。

「……こっち見ないで」

「あ、ああ。ごめん」

 彼女はこちらに背を向け、黒江も、なんとなく背を向ける。

 黒江も、顔が熱くなるのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ