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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第五章ー不協和音
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第五章ー5

「読んでみるか」

 手に取ったのは、彩粒子研究に関する書籍だ。

 黒江は図書棟をざっと見まわしてみる。

 図書棟は、中央に螺旋階段があり、その周囲に読書スペースがある。さらにそのスペースを囲むように無数の本棚が置かれている。

 不思議な空間だった。

 黒江は読書スペースへ移動し、空いている席に腰を下ろす。

 ページを読み進めてみるが、特段、目につく記載はない。

 これまで授業で習ったことや、樋春に教えられたこと以上のものはなかった。数式や小難しい言葉が並んでいるページもあったが、そこは読んでも理解できそうになかったので飛ばしてしまった。

 なにかを調べようと思っているわけでもないから、目当てのものがあるとかないとか、そんなこともない。

 黒江はただ、漠然とページをめくり続けた。

「……」

 自分になにができるのだろうか。

 黒江は思う。

 転移してからも、自分の意志で決めたことと言えば、樋春に協力することくらいだ。

 博也はなにか、確固たる信念がある様子だが、黒江にはそれがない。

 姉を失って間もなかった黒江にとって、選定式はとてつもない衝撃だった。沢山の人間の死を目の当たりにし、こんなことは許せないと、ただ、それだけを思った。

 そこへ、樋春が『選定式を変える』と言ったものだから、乗っかっただけだ。


 前回の選定式で、自分はなにかしただろうか。


 視界が悪くなった時、綾乃に言われるまで自分の能力が役に立つなんて想像もできなかった。

 綾乃が傷つけられた時、前へ進み出たのは博也だ。

 黒江は心配するばかりで、何もしなかった。

 佳那が死んだ時はどうだろうか。

 頭に血が上って無茶をした。

 相手を、殺した。


 それは、称えられることだろうか。


 その後は何をしただろうか。

 綾乃は、自分の意志を貫き、樋春に土下座をさせた。

 博也は、二度とこんなことを起こすまいと誓い、誰よりも熱心に特訓している。


 自分は、一体何をしているのだろうか。

 何をしただろうか。


「……こんなの読んでも意味ないな」

 何冊も何冊も、本をめくっては閉じ、めくっては閉じ。

 その作業を繰り返す。

 正直、なんでも良かった。

 なにかしたかった。

 力になりたかった。


 ――あれ? 綾乃?


 別の書籍を取りに行こうと席を立ったところで、螺旋階段を登って来る一人の女子生徒が目に付いた。

 前回の選定式で右側の髪の毛を失った彼女は、アシンメトリーと呼ばれるような髪型になっていた。左側の髪の毛だけが長い。これまでは『可愛い』雰囲気だったが、そうすることで、大人っぽい印象になっていた。

 それに合わせてなのか、トレードマークの髪飾りも、オレンジ色の明るい花から、ブルーの大人っぽい花飾りへと変化していた。

 そんな彼女――灰霧綾乃は、今日も、特訓が終わった途端、「用事がある」と言って早々と寮へ戻ったはずだった。

 その彼女が、どうして図書棟へいるのか。

 用事、というのは図書棟へ来ることなのだろうか。

「もっと上に行くのか?」

 綾乃は、黒江がいる五階よりも、さらに上の階へ進んで行った。

 図書棟は校舎より高い八階建てで、その上には屋上がある。

 校舎と違い、図書棟の屋上は解放されている。

「慰霊碑、か?」

 思い当たるのはそれしかなかった。

 図書棟の屋上には、慰霊碑がある。

 選定式で亡くなった生徒たちを悼み、何年も前の生徒会が、慰霊碑を設置したらしい。

 ただ、慰霊碑と言っても形だけのものだ。

 選定式で命を落とす生徒は非常に多い。

 いちいち名前を刻んだりすることはできないため、大きな石に『慰霊碑』と書かれているだけらしかった。

 自分がいつ死ぬかも分からない状況で、他の生徒を悼む間などない。その時の生徒会がどれほどの力を持っていたのか知らないが、そんなことをしている暇があったら、樋春のようにもっと別のことを考えられなかったのかと思ってしまう。

 はっきり言って、無用の長物と化している。

「行ってみるか」

 目で追える限り追ってみたが、綾乃は立ち止まる様子を一切見せず、上り続けていった。

 黒江は、手に持っていた書籍を本棚へ戻し、綾乃の後を追うことにした。

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