第五章ー3
「会長――」
「博也君、今、自分がなにをしたのか、分かってるかい?」
博也の言葉に被せるように、樋春は呆れ顔で言う。
「博也君、君の言い分は理解できる。同級生の仲間を失い、どうにかしなければと思っているのだろう? もっと強くなりたいと、心の底から願っているのだろう? それは分かるよ」
樋春は、静かに、諭すように、言葉を紡ぐ。
どこか怒っているようにも見えた。
「博也君、君は今、彩粒子を使って殴ろうとしたよね」
「……はい」
「彩粒子を使用していない者に、全力で殴りかかったら、どうなるか、理解しているのよね?」
「……はい」
「仲間を、殺しかけたんだよ?」
彩粒子の力を甘く見てはいけない。
特訓を始めてから、耳にタコができるくらい、何度も注意されたことだ。
そもそも、人間は彩粒子など使わなくても、相手を殺すことができる。殴打で、蹴りで、絞めで、相手を制し、殺すことができる。
彩粒子を使えば、尚更、その危険度は高まる。
転移して間もない者たちは遊び半分で彩粒子を使っているが、本来、そんな簡単に使って良いものではないのだ。
「焦る気持ちも分かるけど、仲間を失いたくないと言いつつ、仲間に彩粒子で攻撃してどうするんだい? 頭を冷やしたまえよ」
普段の横暴な口調ではなく、優しい口調だった。
樋春は博也が頷いたこと確認するとそれ以上は何も言わず、「さて」と振り返る。
長いポニーテールが揺れ、視線が次の標的へと移される。
「なにか、弁明はあるかい?」
綾乃へ向けられたその言葉は、怒り半分、呆れ半分といったところだった。
「自分は間違ってないと、そう思うかな?」
「いえ」
綾乃は視線を逸らす。
言い過ぎだったと、反省しているのだろう。
「君の言葉は正しいよ。正論だ。オーバーワークは体に悪い。翌日に響くかもしれない。無理をしても成長が見込めるわけじゃない。……確かに、正しいよ。だけど、ちょっと考えて欲しい」
樋春は黒江と博也を指さす。
「黒江君と、博也君。彼らは、君にとっても大事な仲間じゃないのかな? 命を、背中を預ける仲間じゃないのかな?」
「……」
「話したくないこともあるだろうし、どんなことでも全て話せとは言わない。用事とやらについても深くは聞かないけど、だったらなおさら、仲間を失いたくないと必死になっている人間に対して、邪魔とか目障りとか、それはないんじゃないかな? 言いたくないこと、隠したいことがあって、それを、自分の都合で押し通そうとしているんだよ? 隠し事をされる相手のことも考えたまえよ。次、同じことが起こったら、止められるかどうか分からないよ」
樋春はまだ治り切っていない足を引きずり、綾乃に近づく。
「いいね?」
ぺちんと、デコピンをする。
「はい」
綾乃が素直に頷くと、樋春は頷き返し、黒江の横を通り抜ける。




