第五章ー2
「いい加減にしろよ! また誰かが死んでもいいのか」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。それに、私から言わせてもらえば、出会って二週間のヒロに、佳那のことをあれこれ言われたくないんだけど? いい加減にするのはそっちじゃない?」
綾乃は、樋春の真似のつもりか、やれやれと肩をすくめてみせる。
煽っているようにすら見えるその態度は、横で見ている黒江ですら、苛立たせた。
「ヒロ、頑張るのは良いことだと思うよ。集中して、努力して、強くなろうとするのは悪いことじゃない。だけど、じゃあ徹底して体を動かして、動かし続けて、それで本当に強くなれるの?」
「そういうことを言ってんじゃねーよ。お前、やる気ないだろって話をしてんだよ。生き残りたくないのか?」
「やる気がないように見えるのは、ヒロの主観が入ってるからじゃない?」
「なんだと?」
「私はちゃんと、樋春さんの指導を聞いて、なんなら、二人よりも集中して取り組んでるよ。長く残ったからなんなの? 長く残ればやる気があるってことになるの? 小学生?」
綾乃は止まらない。
綾乃も、苛々している部分はあるのだろうが、相手のことなど全く考えていないような口ぶりで、さらに続ける。
「熱血思考もほどほどにしなよ。熱くなるのは勝手だけど、それを人に押し付けないでくれる? やりたいヤツだけでやっててよ」
綾乃は一度、そこで言葉を切って、
「正直、目障りなの。ホントに邪魔。自覚してよ」
キツく、言い放った。
その一言が、博也の心に油を注いだ。
「この、クソ野郎がっ!」
あっ、と思った時にはもう遅かった。
赤色の彩粒子が舞う。
博也は、あろうことか『全力で』綾乃に殴りかかっていた。
「え――」
綾乃も、そこまで火をつけることになるとは思ってなかったのだろう。完全に油断していたようで、防御もなにもできないまま、博也の拳を受ける形となってしまう。
すぐ脇にいた黒江ですら、止める間もなかった。
「阿呆」
低い声と共に、博也の隣、三十センチの距離に小さな大仏が出現する。
「うお!?」
大仏は出現するや否や、その頑強な両手で、博也を思いっ切り突き飛ばした。
博也は受け身も取れないまま、ごろごろと数メートル転がっていった。
黒江の足元に、金色の彩粒子が流れて来る。
樋春が、松葉杖を付き、足を引きずりながら近寄って来る。
「黒江君、なにをぼーっと見てるんだい? 今のは良くないだろう。言い争いを止めないのなら、いざという時に動けるよう最低限備えておかないと。取返しのつかないことになるよ」
松葉杖で、コツンと叩かれた。
「すみません」
樋春は、分かれば良し、と頷き、転がっていった博也に近づく。




