第五章ー1
二度目の選定式から一週間が経った。
まだ、佳那の死を乗り越えられたとは言い難かったが、「悲しい」「辛い」と嘆いていてもどうにもならない。時間は有限。次の選定式へ向け、準備を始めなければならなかった。
佳那の死は黒江たちに暗い影を落としたが、だからとて、歩みを止めてしまえば、その死すら無駄になってしまう。
結局のところ、前へ進むしかなかった。
「灰霧、お前、何も感じないのかよ」
「どういう意味?」
「もっと頑張ろうとか、もっと特訓して行こうとか、思わないのかって聞いてんだよ」
鍛錬場の片隅で、不穏な空気が流れる。
綾乃はいつも通り飄々とした態度でいるが、博也は我慢ならない様子で、今にも綾乃を殴り飛ばしそうな勢いだった。
樋春は手を出さず、傍観するのみ。
黒江は止めるべきか、頭を抱えていた。
「ヒロ、逆に聞きたいんだけど、樋春さんは毎日、私たちのことを考えて、最適な計画を立ててくれてるよね? オーバーワークにならないよう、細心の注意を払って、指示してくれてるよね? それなのに、無理して残って練習して、意味があると思ってるの?」
「あるだろ。俺が能力を発現したのだって、特訓の他に、自分で残ってやってたからだ。それは灰霧だって知ってるだろ」
「知ってるよ。でもそれは、あくまで『能力発現』をメインとしたものでしょ? 今、ヒロがやろうとしているのは、体を動かすことをメインとした戦術確認やトレーニングだよね。全く違うよ」
「違わねーよ。そもそも――」
理路整然と言葉を並べる綾乃に対し、感情的になっている博也。
黒江は、どちらの味方につくべくか、中立として止めに入るべきか、分からなかった。
事の発端は、綾乃の『用事』だ。
以前から、綾乃は午後五時過ぎまでの特訓を終えると、皆で一緒に帰らず、「用事があるから」と言い残して、一人で帰ってしまう様子があった。
これまでは誰も触れずにいたのだが、最近、博也がその行動を問題視するようになった。
佳那の死を受け、黒江と博也は、樋春からの特訓が終わったあとも、寮の門限ぎりぎりまで鍛錬場に残ることが多くなっていた。
最初のうちは「君たちにとっても他の者にとっても危ないから」と樋春も一緒に残っていたのだが、最近では、樋春からも太鼓判を押され、単独での居残り練習が許可されていた。
もう二度と、近しい者を失いたくないという気持ちが、確実に成長へ繋がっていた。
その気持ちは、綾乃も同じだと思っていた。
転移前からの知り合いだったという佳那を亡くし、一番辛い思いをしているのは綾乃のはずだったから。
なのに、綾乃の行動は全く変わらなかった。
毎日、特訓が終わると「用事があるから」とすぐに帰り、それ以後、鍛錬場に戻って来ることはない。『用事』の内容を尋ねてもはぐらかし、一度として、残ることはなかった。
樋春を土下座させた時の、あの激情はどこへいったのか。
黒江と博也、男子二名は、綾乃への不満をため込んでいた。
そして今日、博也の不満がついに爆発した。




