第四章ー15
◆◇◆
「遅かったな」
生徒会室で待ち受けていた樋春に、少女は「すみません」と頭を下げる。
樋春の背後へ移動し、立ったまま会話を始める。
「今回は、想定外でしたね」
樋春は不機嫌そうにふんと鼻を鳴らした。
「全くだ。第四高校にスナイパーがいる、なんて情報、これまであったか?」
「ありません。おそらく、一年生でしょう」
「そうだろうな。スナイパーがいると分かっていれば、彼女に最初からアドバイスしていたし、なにより、あたしも土下座しなくて済んだ」
「あれは傑作でしたね」
クスクスと笑う少女を、樋春は「黙れ」と一喝する。
少女は意に介した様子もなく、横にある冷蔵庫からレモンティーを取り出す。
「冗談はともかく。想定外ではありましたが、予想外ではなかったのではないですか? 私のことに関しても、三回乗り切るまでは、と言っていましたよね?」
レモンティーを一口飲み、そのまま樋春へ渡す。
樋春は口をつけ、「面白味のない味だ」と一言。
すぐに少女へつき返す。
「確かに言った。全員が生き残れるとも思っていなかった。だが、想定外の事態であったことに違いはない」
「相変わらずですね」
少女は笑う。
樋春は、思い通りにならないことを嫌う。
人間である以上、失敗するしミスもある。
今回に限った話ではなく、誰かの生死に関わる大きなミスだってして来た。
だが、樋春は他の者に比べ、圧倒的にそれが少ない。
彼女の強さ、正しさは、気高く、尊い。
いつだって正しくて、誰もが自然と吸い寄せられてしまうような、カリスマ性がある。
反面、そんな彼女に並び立つ者はいない。
ふと、心配になることがある。
第三高校の生徒会は、自分を含め、樋春がいるから成り立っている部分がある。
もし彼女が倒れてしまったら、第三高校は選定式を変えるどころか、学校値の達成すら困難になる。
この人には、それだけの影響力がある。
「てきとーに起こしてくれ」
「分かりました」
樋春は目を閉じる。
数秒後、寝息が聞こえて来る。
「……」
疲れたのだろう。
今回の選定式は危うい場面が何度もあった。
三年生になり、思い知った。
今回の戦闘は、『危険』の種類が違った。
あと一年で卒業となる三年生同士の戦いは、能力の使い方を完璧に把握しているだけではなく、戦いへの姿勢も他とは一線を画する。
樋春が負けるとは思わない。
この絶対強者が、誰かに屈する姿など想像できない。
ただ、このまま楽に卒業できるとは思えなかった。
「私も、できることはしておきましょう」
副会長職に就く彼女は、樋春の肩へ、愛用しているストールをかけ、生徒会室をあとにした。




