第四章ー13
「君たちは、今日はもう帰りたまえよ。……眠れないかもしれないが、ちゃんと体を休めること。いいね?」
「でも、今日の反省とか――」
「それはもう十分すぎるくらいしただろう? というか、今日はこれから、防衛についていた副会長と会う予定があってね。あたしが無理なんだよ」
「あ、そうなんですね。分かりました」
そんな会話をして、樋春と別れる。
「……」
「……」
「……」
生徒会室を出て、すぐに沈黙が訪れた。
「そう言えば、黒江、撃たれたところ大丈夫なのか?」
博也が、無理やり話題を捻り出すように、声をあげた。
「あ、うん。今のところ大丈夫かな。少し痛むけどね」
「そうか。改造制服、本当に凄いな」
「そうだね、うん」
「はは……」
「……」
会話が止まる。
「……」
それ以上、誰も喋ろうとしなかった。
選定式中はなるべく考えないようにしていたが、一息ついてしまうと、いるはずの人間がそこにいない事実を、意識させられる。
たかが二週間、されど二週間だった。
付き合い自体はそんなに長くはなかった。
思い出というほどのものはない。
良きクラスメイトとして、良き仲間として、なんとなく一緒に過ごしていただけの仲だった。
それでも、米粉パンを愛する彼女は、いつでも黒江たちの隣にいた。
悲しみよりも、虚しさよりも、体の一部を突然失ってしまったかのような、喪失感の方が大きかった。
生徒会室の前でぼんやりしていても仕方がないのだが、なんとなく、一歩が踏み出せなかった。
樋春と、もう少し話をしていたかった。
「行こっか」
誰もが立ち止まる中、最初に踏み出したのは綾乃だった。
つられるように、黒江と博也も後に続く。
右側の髪の毛をバッサリと斬られた彼女は、その上にあったトレードマークの髪飾りを外していた。
後ろ姿は普段と変わらないように見えるが、きっと、一番傷ついているのは彼女だ。
しばらく無言の時間が続き、階段に差し掛かった頃。
黒江の視線に気付いた綾乃は、いつもの快活そうな笑顔を見せた。
「なに?」
「いや、なにってこともないけど」
「……まあ、アレだよ。佳那のことは、そういう運命だったってことで。割り切らないとね。佳那の分まで生き抜こうよ。それで終わり。辛気臭いのはなし!」
強がっている、のだろうか。
分からなかった。
佳那との付き合いが短いように、綾乃との付き合いも、同じく二週間ほどだ。
気にしていないことはないだろうが、黒江には、彼女の真意を読み取ることはできなかった。
「灰霧」
今度は博也が声をかける。
「だからなに? 辛気臭いのは――」
「白鳥さんとは、この世界に来る前から知り合いだったんじゃないのか? それで、いいのか?」
「……っ」
綾乃は小さく息を飲む。
階段を降りかけていた足も止まった。




