第四章ー11
「女子のスカートというのは不便でね。動きやすさにおいては男子のズボンを凌ぐが、下から攻撃を受ければ簡単に被弾する」
それを見て、一年生三人は目をむいた。
肉付きの良い健康的な太ももから、血が流れていた。
樋春が、負傷していた。
包帯が巻いてあったが、その包帯も真っ赤に染まっている。
出血量が凄まじい。
相当深い傷のようだった。
「これでも、君たちと早く合流しなければと思ってね、血が止まるまで待たずに駆けつけて来たんだが……。まあ、そう見えないかもしれないがな」
樋春は自嘲気味に、「はは」と笑う。
よく見れば紺色のソックスにも血が流れ、ソックスがどす黒い色に変色していっている。
「君は、あたしがこれ以上無理をして、早く駆けつけて欲しかったと、そう言っているわけだが……。仮にあたしがもっと無茶をして、さらに傷を負った状態で合流したとして。少しくらい早く駆けつけられたとして。……それで、どうするんだい? なにがどう変わるんだい?」
樋春は問いかけつつ、スカートを下ろし、もとの席に腰を下ろした。
話している間も、腰を下ろす時も、痛がる素振りは一切見せなかった。
「あたしとて、何も感じていないわけではないよ。でも、悲しむのも反省するのも全て終わってからでいい。『仕方ない』と、割り切るしかないんだ。……いいね?」
念を押すように、樋春は言う。
自分が正しいと、信じて疑わない姿勢は、最後まで変わらなかった。
実際、正しい。
樋春は最速で向かおうとしたのだろう。
前回の選定式でも、複数人に囲まれることはあった。戦えない二人を連れてなお、無傷で選定式を終えていた。
樋春は強いだけじゃない。巧いのだ。
そんな樋春なら、無傷とまではいかなくても、スマートに勝負をつけることができるはずだ。
だが現実は、深手を負っている。
無理をしたのだろう。
もし、これ以上の無茶を強いて、樋春の命まで危険に晒されるようなことがあれば、彼女の言う通り、黒江たちが生き残る道がなくなる。
樋春は、最善の道を歩んだのだ。
「だとしても」
「え?」
「だとしても、きちんと、謝ってください」
それでも、綾乃は黙らなかった。
納得はしたのだろう。
先ほどまでの威勢の良さは消えていた。
代わりに、ぎゅっとスカートの裾を力いっぱい、握り締めていた。
分かっていても、理解できても、収まらない感情がある。
そんな雰囲気だった。
「……分かった」
一瞬、樋春は驚いた表情を見せ、今度こそ素直に頷いた。
血が滴る足を引きずり、席を立つ。
「悪かった。最初から、ちゃんと注意すべきだったよ。本当に、ごめん」
絶対強者が、床に頭をつけた。




