第四章ー10
「私たちが色覚変化の双子と戦っている間、樋春さんは戦闘中で来られないと言っていましたが、何故、あれほど時間がかかったのですか?」
「……相手校の生徒数は六名だった。それを一度に相手取っていたからな。多少時間がかかってしまうのは仕方ないだろう?」
「六っ!?」
黒江はさらりと出されたその数に驚く。
黒江たちは、四対二の戦いで薄氷の勝利を得たのだ。
だというのに、この人は、たった一人で六人を相手にして生き残ったのか。
それなら、ある程度時間がかかってしまうのも――
「本当に、そう思っていますか?」
樋春の弁に、綾乃はひるまなかった。
絶対強者を相手にして、一歩も引かない。
問い詰める。
「どういうことだ?」
「あなたなら、もっと早く決着をつけて、合流できる方法があったんじゃないですかって言ってるんですよ」
「なに?」
樋春も、余裕の表情を消した。
挑戦的な態度の綾乃を睨み付ける。
「樋春さんはさっき、『中庭側でなければ』と言いましたよね? どうしてそれを、事前に教えてくれなかったんですか? 飛行能力を持っている佳那が、西校舎から東校舎へ向かうなら、中庭を通ることは予想できたはずです」
「……それが? なにが言いたい?」
「分かりませんか? 樋春さんにとっても、ここで佳那が死ぬとは思ってなかったってことですよ。佳那が死ぬかもしれないと思っていたなら、最初から『移動時に中庭を通るな』と教えていたはずです。それをしなかったということは、少なくとも、それを教えないことで、佳那が死ぬとは考えていなかったってことです」
つまり、と綾乃は声を張る。
強く、強く、言い放つ。
「つまり、佳那が死ぬと思っていなかったから、教えなければならないことも教えなかったし、早く合流しようと、努力もしていなかった。……違いますか?」
綾乃は最後に、「仕方ないで済まさないでください」と、吐き捨てるように言った。
誰よりも割り切るのが早く、自分自身でも『切り替えが早い』と豪語する綾乃が、明確に、怒っていた。
怒りに任せた感情論ではない。
先ほど、樋春は最初から分かっていたかのように、『中庭側でなければ』と呟いていた。
一から十まで全てを予測し、全ての事柄を教えろとは言わない。
そんなことは誰にもできないだろう。
百戦錬磨の樋春であっても、ミスはあるはずだ。
ただ、それでも、生死に関わることなのだ。分かっていたなら教えてくれと思うのは、甘い考えなのだろうか。
特に、綾乃と佳那の二人は、『生き残りたい』という希望で樋春の下へやって来た。
結果的には、佳那はここに来たから死亡したとも言える。
前回の選定式と同じように、黒江たちや他の一年生を無視して、最初から逃げることに徹していれば、死んでいなかったかもしれないのだ。
「そうだったとして、それで、君はあたしに何を求める?」
樋春は、真正面から非難されてなお、高圧的な態度を崩さない。
一年生三人を見下すような口調のままだ。
「君が指摘した通り、中庭側に出るなと伝えなかったのはあたしのミスだ。謝ろう」
ぺこりと、形だけ頭を下げる。
「それで? あとはどうすればいい? 君は、一年生諸君が死ぬと考えていなかったから、あたしが手を抜いたのではないか、と言ったな。じゃあ逆に尋ねよう。無理をして、無茶をして、もし、あたしが死んでいたら、君らは残りの八時間をどうやって生き残る?」
「それとこれとは話が――」
「違わないさ。悪いが、あたしは手を抜いたつもりは一切ないし、君らが死ぬかもしれないと、常に考えていた。どうしても信じられないと言うのなら……」
樋春はため息交じりに席を立ちあがり、
スカートを、めくりあげた。




