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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第四章ー選定式Ⅱ
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第四章ー8

     ◆



「――ろ江! 黒江!」

「クロ!」

 誰かが、自分の名前を呼ぶ声がした。

「は、え?」

「黒江! 無事か?」

 意識が、体に戻って来る。

 声が聞こえた方向を向くと、見慣れた顔があった。

「クロ、大丈夫?」

 珍しい。

 いつも軽いノリの綾乃が、本気で心配そうな顔をしていた。

「え、あ、ああ」

「良かった……」

 綾乃はふぅと大きく息を吐くと、


「自分がなにをしたか、覚えてる? 意識飛んでたみたいだけど」


 そう尋ねてきた。

 はっとする。

 そうだ、佳那が殺されて、それで――

「あいつは!? あの狙撃手は?」

「そこに転がってるよ」

「え?」

 博也が顎で示した場所には、

「あ……」

 確かに、転がっていた。

 その表現が正しい。

 壊れたマリオネットみたいに、体があちこち変な方向へ捻じれている。

 損傷が激しいのは、頭部。

 鈍器かなにかで殴られたように、後頭部が陥没していた。

 明らかに、死んでいた。

「俺が、やったんだよ、な」

 うっすらと、覚えている。

 頭に血が上り、四階から飛び降りた。

 そして、狙撃手を全力で殴り飛ばした。

「……こんなことになるのか」

「らしいな」

 博也はどこか気まずそうに頷く。

 人を、能力を使用した状態で殴り飛ばしたのは始めてだった。

 特訓の時は、いつも樋春が直前で止めてくれていたから。

「感傷に浸っている暇はないよ。早く樋春さんと合流しよう」

 綾乃は、普段と変わらないように見えた。

 こんな時でも、彼女は変わらず、強い。

「綾乃……その、佳那は?」

「見ない方がいい」

 反論を許さない口調だった。

 博也も無言だった。

 それでも黒江は気になって、「だけど」と言う。

「選定式中で危険なのは分かるけど、せめて――」


「いいから。見ないであげて」


 綾乃は背を向け、そのまま校舎へ向かって歩き出す。

 佳那の状態は、四階から目視できていた。

 もちろん近くで見るのとは違うのだろうが、黒江が言いたいのはそういう話ではなく――


「これ、お前にやるよ。……好きなんだろ?」


 博也から、なにか、柔らかいモノを手渡される。

「これ……」

「俺も、近くでは見てないんだけどな。灰霧が言うには、あの高さから落ちても、握り締めていたらしい。どんだけ好きなんだって話だよな」

 黒江の肩をぽんぽんと叩き、博也も綾乃の後を追う。

 

 手渡されたのは、食べかけの米粉パンだった。

 

 最後のその瞬間まで、佳那は米粉パンを食べていたらしかった。

「くそっ!」

 それ以上、黒江には何も言えなかった。

 溢れる涙を堪え、前を向く。


「米粉パン、いる?」


 佳那の声が、聞こえた気がした。


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