第四章ー7
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何が起こったのか、理解するまでに数秒かかった。
佳那が、頭から地上へ落ちていった。
「佳那!」
真っ先に気付いた黒江は窓際に駆け寄り、大声で呼びかける。
「佳那! 返事をしろ!」
何度も呼びかけるが、佳那はピクリとも動かなかった。
そしてそのまま――
頭から、地面に激突した。
「……佳那」
赤い血が、佳那の真っ白い髪の毛を濡らしていく。
確認するまでもなかった。
佳那は、絶命していた。
「嘘、だろ」
遅れて窓際にやってきた博也も、その無残な姿を見て絶句する。
頭が真っ白になった。
ついさっき勝利を分かち合って、普通に話していたのに、こんなにあっさり、終わってしまうものなのか。
いくらなんでもいきなりすぎる。
どうして――
「狙撃!! 周囲を確認して! 早く!!」
耳元で怒声が響き、現実に引き戻される。
綾乃だった。
「探して!」
言われるがままだった。
何も考えられないまま、それでも目だけを動かして、狙撃手を探す。
「……」
簡単には見つからない。
校舎の隅々まで視線を送る。
西校舎では前回と同じく、同級生たちが襲われていた。
北校舎や東校舎でも、悲鳴や断末魔が溢れている。
屋上にも目を向けるが、それらしい姿は確認できない。
「アイツだ!」
博也が指さした先、中庭の、西校舎と南校舎の端、ちょうど緑が生い茂っている辺り。
そこに、光る銃口が見えた。
「――――っ!」
黒江は、飛び出していた。
背後から、待てとか危ないとか聞こえた気がしたが、そんなものは無視した。
四階の窓から、飛び降りる。
いくら彩粒子を纏っていても、無事では済まない高さ。
そんなこと、考えもしなかった。
身体強化を最大限まで引き上げる。
漆黒の光が、放流される。
濃く、濃く、滝のように、流れ出す。
――着地。
足の裏に、今まで感じたこともない衝撃が伝わって来る。
関係なかった。
痛いとすら思わなかった。
茂みへ視線を向ける。
こちらに気付いたのだろう。
慌てて銃口を向けて来る人間が見える。
黒江は疾走する。
もし頭を撃ち抜かれたら。
もし改造制服や自身の身体強化を貫くほどの威力があったら。
もし――。
危険であることは、頭の片隅で理解できていた。
でも、それよりも、なによりも。
一発、ぶん殴ってやらなければ、気が済まなかった。
「このっ!」
弾丸が発射されたのが、『見える』。
避けるほどの余裕はない――ないが、急所を外すくらいなら、できる。
「――っ!」
太ももに直撃する。
「こいつ!」
もう一発。
次は左肩に当たった。
だからどうした。
それがなんだ。
――俺は、コイツをっ!
「おい! 待てよ!」
「ひぃいい」
銃弾が当たっても意に介さず突き進んで来る黒江に、恐怖を覚えたのだろう。
狙撃手は離脱を開始する。
銃口を下ろし、茂みから飛び出した。
あるいは、焦らずに撃ち続けていれば、勝機はあったのかもしれない。
あるいは、逃げようとせず、その場に留まっていれば――。
狙撃手は、
「遅いんだよ!」
黒江に後頭部を殴られ、吹き飛んだ。




