第四章ー4
「赤転!」
話している間に、また、視界が変わった。
この視界の色が変わる能力は、自身の姿を隠し、斬りつけて来ている方ではなく、もう一人の方の能力だろう。
見渡す限り血の色だ。
眩しいとか視界が悪いとか、それ以上に目が痛い。
「いっ――た」
すぐ近くでジャギンという気色の悪い音が聞こえる。
「~~~~~っ!」
狙われたのは、綾乃だ。
首筋の辺りを斬られたらしい。
痛みを堪えるような、呻き声が耳に届く。
「綾乃! 大丈――」
「大丈夫! それよりなんとかしないと!」
綾乃は気丈にも、黒江の言葉を遮り、叫ぶ。
長い髪の毛が上手い具合に間に挟まったのだろう。
視界が赤いせいで傷の程度が把握できないが、運良く致命傷は免れたようだ。今すぐどうこうなるような傷ではないらしい。
本当に、髪の毛を結わなくて正解だった。
黒江は周囲に視線を巡らせる。
「あ……」
赤い視界の中で、深緑色の彩粒子は目立つ。
発見した。
黒江たちから見て、西校舎側方向へ数メートル距離を取っている。
「見つけたのはいいけど」
見失わないよう注意しつつ、しかし、続く策がない。
敵を視認できるようになったのは良いが、どうやって倒せば良いのか。
姿が見えるのだから、今度こそ攻撃を、とも思うが、仮に身体強化で突っ込んで行ったとしても、高速移動中に視界が切り替えられたら、また標的を見失うことになる。それどころか、方向を見失い、壁や窓に激突したら大怪我じゃ済まないだろう。
どうすれば――。
「俺が止める」
迷っていると、博也が陣形を崩し、黒江の前へ進み出る。
その顔には、明確な闘志が宿っていた。
「黒江、敵の位置を教えてくれ」
「それはいいけど、まさか……」
「大丈夫だ。発動するだろ」
有無を言わさぬ口調で博也が言い切る。
数日前、博也は能力を発現させていた。
その能力は、極めて強力なもので、あの樋春ですら「ふざけた能力だ」と笑っていた。
ただ、ある理由から、『選定式』という条件下においては、きちんと扱えるのか、判断ができていない代物だった。
予定では、樋春と合流し、ある程度安全が確保されてから試してみる予定だったのだが……。
「ごちゃごちゃ考えても仕方ねーだろ。さっきだって、一歩間違えば灰霧はやられてたんだ。リスクがあるのは承知の上だ。俺が止めさえすれば、活路はある」
博也はその大きな体で、二人を守るように、さらに前へ歩を進める。
賭けであることに違いはないが。
「分かった」
黒江も腹をくくる。
綾乃も口を挟むことはなかった。
八方塞がりの今、博也の能力を上手く使えるのならば、それ以上の策はない。
博也の言う通り、ごちゃごちゃ考えても仕方ない。
「博也、相手の位置は――」
「さっきから、こそこそ相談してんじゃねーよっ!」
教えようとしたその時、敵が動いた。
深緑色の彩粒子が流れ、一直線に博也へ向かって突進してくる。
「――真正面だ!」
「了解!」
黒江の声に応え、博也は正面へ手のひらを向け、
「点火!」
吠えた。




