第四章ー2
「二人とも、通信機をオープンにして。樋春さんと繋ぐ」
綾乃がすぐに指示を飛ばしてくる。
黒江は手首につけていた操作バンドに手をやる。
暗くてよく見えないが、これの操作は何度も練習させられた。万一はぐれてしまった時や、戦闘中でも使えるように、と樋春からしつこいくらい指導されていた。
「樋春さん、綾乃です。現在、南校舎四階で敵校生徒二名と接敵中。樋春さんは今どこですか?」
同じ通信機を装着している者全員で話し合うことができる『オープンモード』を選択すると、綾乃の声が耳元に届く。
明瞭簡潔に、今の状況を伝えていた。
普段の軽い態度から誤解しそうになるが、この二週間、樋春の特訓を経て、最も成長したのは綾乃だ。一年生の中で、誰よりも樋春の言葉を正確に読み取り、行動し、順応できていた。
綾乃と樋春は手早く情報を交換する。
《樋春だ。悪いがこっちも戦闘中だ。北校舎側から敵校が攻めてきている。同じ四階にいるが、すぐに合流するのは厳しい。負傷者は? 逃げることは可能か?》
「負傷者は今のところいません。ですが、視界を操作するタイプの能力者が相手にいます。逃げることは困難かと」
《了解した。なるべく早く終わらせて合流する。それまで、なんとしてでも持ちこたえろ》
通信はそこで途切れる。
東校舎と北校舎の角にある階段から、敵校生徒が攻め上がってきているのだろう。
おそらく、先に東校舎四階に到着していた樋春は、それを食い止めているのだ。
樋春が食い止めてくれていなかったら、挟み撃ちになっていた。
「どうする?」
「敵さんは?」
「分からない。よく見えない」
樋春が来られないと聞き、周囲への警戒を強めるが、先ほどまで自分たちを追って来ていた敵の姿が見えない。
視界が悪すぎる。
見えないわけではないが、せいぜい二、三メートルが限度だ。
「……」
息を殺し、背中を寄せ合う。
狭い廊下だ。
いくら視界が悪いと言っても、隠れられる場所はほとんどない。攻撃するために近づいてくれば、さすがに分かるはずだが……。
「クロ、あんたの能力でも見えない?」
「あ、そっか」
言われて、気付く。
黒江の能力、『身体強化』は、彩粒子と同じく身体能力全てが引き上げられる。
使用すれば視力も向上する。
黒江は一度、目を閉じ、視界をリセット。
そして体内から力を放出するようなイメージを持ち、能力を解放。
ゆっくりと目を開け――
「――っ!」
反射的に腕をクロスさせ、ガード体制を取った。
目の前に深緑色の彩粒子が迫っていた。
「おらよっ!」
声と共に、鋭利な刃物で斬りつけられたような、そんな感覚が腕に伝わって来る。
斬られた、と黒江本人ですら覚悟したが、
「あ? 刃が通らない?」
敵の驚きで事態を把握する。
やはり、ナイフかなにかで斬りつけられたらしい。
だが、無傷。
防刃対策済みの改造制服を着ていたおかげで命拾いした。
もし改造制服でなかったら、腕をばっさり斬られていただろう。
「おい兄貴! コイツ、刃物が通らねえぞ!」
改造制服に助けられ、喜んでばかりもいられない。
叫ぶ声は聞こえるが、相手の姿が見えなかった。
反射的にガードできたのは、深緑色の彩粒子を視認できたからだ。今も、彩粒子だけはなんとか視認できているが、相手本人の姿が見えない。




