第四章ー1
開始と同時に四人はそろって教室を飛び出す。
「先に行ってる。気を付けて」
「佳那も気を付けて!」
佳那はそのまま中庭へ続く窓から外へ飛び出し、飛行能力で真っ直ぐ東校舎を目指す。
本音を言えば、全員で一斉に空へ逃げ出したいところなのだが、佳那の飛行能力には限界がある。
試してみたところ、一名であれば問題なく飛行できるのだが、二名以上だと飛行速度が著しく低下し、三名以上だと真っ直ぐに飛行することすら困難になる。
そんな状態では逆に良い的になってしまう。
地上戦において、最も戦力にならない佳那にはすぐに逃げてもらい、他の三人は団体行動で逃げることを予め打ち合わせていた。
黒江、博也、綾乃の三人は佳那を見送り、自分たちも急いで東校舎へと走り出す。
「綾乃、髪の毛そのままなんだな」
隣を走る綾乃へ目を向けると、長い髪の毛をたなびかせていた。
トレードマークの、オレンジ色の花飾りもそのままだ。
「特訓の時はポニーテールにしてたよね?」
尋ねてみると、
「どっちにしようか迷ったんだけど、前回の選定式も結ってなかったからね。こっちの方が生き残れるかなって」
少し以外な答えが返って来た。
この二週間、一緒に行動して、綾乃の図太さは筋金入りだと感じていた。佳那とは違ったマイペースさと、どんなことに対しても臆することのないその姿は、尊敬の念すら抱かされていた。
「綾乃も、やっぱり女子なんだな」
「はあ?」
睨み付けられるが、それはスルーしておく。
綾乃は綾乃なりに、意識している部分があるのだろう。
「とにかく、このまま会長と合流できればっ!」
なんて、呟いた矢先。
「おい、そこの三人!」
第二体育館の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「早くない!?」
叫び、振り返ると、第二体育から二人の敵校生徒が追いかけて来るのが見える。
「双子か!?」
黒江はその二人を見て、思わず突っ込みを入れた。
その二人は、ともに髪の毛が濃い緑色だった。
その上、二人とも両目が隠れるくらい前髪が長い。
スカートじゃないところを見ると、男子生徒のようだった。
今回の敵校、第四高校の制服は、第三高校と同じくブレザーだった。第三高校と違い、ブレザーの色はワインレッド。ズボンは黒だ。
「てめえら! 逃げんな!」
口が悪いヤツらだった。
両目を隠した陰気な風貌とは大違いだ。
黒江たちは彩粒子全開で逃げるが、相手も全力で追ってくる。
「おい、どうする?」
先頭を走る博也が、前を見たまま問いかけてくる。
「……追いつかれる感じじゃなさそうだけど」
再度、振り返るが、距離が縮まっているようには見えない。
このまま東校舎四階まで逃げ切れれば、樋春と合流できる。
他人任せで申し訳ないが、生き残ることが最重要課題だ。
双子とはまだ二、三十メートルほど距離が離れている。逃げられそうなら逃げろ、と樋春にも言われている。
「このまま逃げよう」
「だね。私も賛成」
「了解だ」
三人で確認し合い、前を見据える。
西校舎と南校舎角の階段を駆け上がり、四階まで到達する。
背後から二人が追って来る気配を感じつつ、おそらくもう東校舎にいるであろう樋春のもとへ急ぐ。
「いい加減止まれや、クソガキども!」
そう言われて、立ち止まる人間はいない。
罵声を無視して南校舎の廊下を駆け抜け、あと数メートルで東校舎へ到達する――。
その距離まで来て、
「黒転!」
視界が真っ黒に染められた。
「うわっ!?」
急ブレーキを駆け、立ち止まる。
「これは……」
目を凝らすと、うっすらではあるが、周囲を確認することができる。視界を封じられたというよりは、色付き眼鏡をかけさせられたような感覚だった。
「あの二人の、どっちかの能力みたいだね」
「だろうな」
黒江より少し先で立ち止まっていた博也と綾乃の声が聞こえる。




