第三章ー10
◆◇◆
「諸君、準備はいいかい?」
転移後、二度目の選定式が始まる。
早朝、朝七時。
黒江たちは生徒会室に集まっていた。
改造制服を着こみ、各自、通信機を始め、長丁場に耐えるだけの準備をしてきた。
能力の扱いに関しては、まだまだ万全とは言い難い。
それでも、できる限りのことはやってきた。
「今日の対戦校は第十位、国立転生第四高等学校だ。格上の相手ではあるが、今の君たちなら十分戦える。生き残ることは可能だとこのあたしが断言しよう」
樋春が力強く宣言する。
「昨日も話したが、基本的にはあたしが君らを守る。ただ、要注意なのは開始直後だ。なるべく早く合流できるよう努めるが、君たち一年生が最も敵に近い。逃げられそうにないなら時間を稼ぐこと、逃げられるなら何を差し置いてでも逃げること。いいね?」
「はい」
頷く。
昨日の夕方、特訓終了後に選定式の細かいルールについて、樋春から改めて説明があった。
学校の敷地外へ出ないことや、寮や売店が立ち入り禁止区域になっていることの他に、敵校生徒がどこから攻めて来るのか、樋春に聞かされた。
各学校によって場所は違うらしいが、選定式のルールとして、一年生教室から二十メートル範囲内に『魔戸』と呼ばれるものが設置される。
『魔戸』は、空間と空間を繋げるもので、そこをくぐると全く違う場所へ転移することができる。魔戸に関しては、この世界の者たちに味方する保持者の能力なのか、それともこの世界の発達した技術なのか、樋春にも分からないらしいが、選定式ではそれを使用し、執り行う仕組みとなっている。
第三高校の魔戸は、西校舎と北校舎の角から続く、第二体育館に設置される。
西校舎の端にある一年一組が真っ先に狙われたのはそのためだ。
西校舎二階までが一年生、三階が二年、四階が三年生教室となっている。敵校生徒からすれば、選定式に不慣れな者が多く、一番近い一年生教室を狙うのは通りだ。
「――以上! では、健闘を祈る」
樋春と一年生たちは拳を合わせ、解散となる。
樋春はこの後、生徒会役員とも打ち合わせがあるとかで生徒会室に残った。
一年生四人は教室へと歩を進める。
「じゃあ、予定通りに。開始後、すぐね」
「分かってる」
「またあとでな」
軽く言葉を交わし、違うクラスの綾乃とは別れる。
前回の選定式では、開始後、ほんの僅かだが敵校生徒が攻撃を仕掛けてくるまで時間があった。
佳那は、その間に退避できていた。
四人は生き残るため、その僅かな間に教室から抜け出すことを計画していた。
樋春との合流予定地点は東校舎四階。
魔戸とは反対側で、敵校生徒がすぐに来るとは考えにくく、なおかつ、樋春がスタートする四階であるため、最も合流しやすい位置と言えた。
「呑気なもんだな」
「仕方ないでしょ」
クラスへ戻ると、四十人近いクラスメイトたちは、楽し気に談笑していた。
前回の黒江たちと同じく、テストかなにかが始まると思っているのか、ノートを開き、勉強している者もいる。
これからなにが起こるのか、彼らは何も知らない。
知らされていない。
「……」
「ヒロ、余計なこと考えないで」
「分かってる」
佳那の言葉に、博也が舌打ちをして返す。
覚悟はできている。
樋春からも、不可能だと言われている。
それでも、目の前にいるのは同級生たちで、クラスメイトだ。
ほとんど関わりのない者たちを気にしている余裕がないことくらい理解している――しているが、気にならないかと問われれば、嘘になる。
見殺しにするしかないのだ。
「席につこう」
「ああ」
「そうだね」
一番冷静なのは佳那だった。
七時五十分。
あと十分で、黒江たちにとっては二度目の、佳那にとっては三度目の選定式が始まる。
「よーし、お前ら、始めるぞー」
席につくと同時、桜波先生が教室へ入って来る。
よれよれのワイシャツに、ぼさぼさの髪の毛。
覇気がなく、全てのことがどうでもいいと言うような、のんびりとした声音、風貌。
その様子から、「お前らどうせこれから死ぬんだから、見た目なんかどうでもいいだろ」と言われている気がした。
黒江は内ポケットに忍ばせてきたスマホをぎゅっと握り締める。
――姉ちゃん、力を貸してくれ!
選定式の幕が上がる。




