第三章ー6
◆◇◆
焦る。
選定式まで、あと三日。
「くそっ!」
連日連夜、想像力を働かせてチャレンジを続けるが、一向に能力が発現する気配すらなかった。
たった一人、薄暗い鍛錬場で汗を流す。
樋春や黒江に助言してもらい、その都度、自分なりにイメージを膨らませ、挑戦するが、なにかが噛み合っていない。
違う気がする。
博也は樋春から差し入れとしてもらった、『鯖味噌ソーダ味』の飲料水を飲む。
「不味い……」
鯖の味噌煮と炭酸を無理やりくっつけたような、人間の飲み物とは思えない味がした。
「お、やってるねー?」
「あ?」
一息ついていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
鍛錬場の入り口に灰霧綾乃がいた。
彼女はのんびりとした足取りでこちらへ歩いてきて、
「なにか手伝おうか?」
そんなことを言う。
その顔には、満面の笑み。
三日後に選定式を控えた者の表情とは思えなかった。
余裕すら感じられる。
「……いらん」
ぶっきらぼうに返すが、
「またまた~、煮詰まってるんでしょ? できることない?」
さらにそんなことを言ってくる。
「……」
鬱陶しい。
綾乃に悪気がないのは分かっている。
一週間以上、一緒に過ごしてきて、彼女が思ったより悪い人間でないことは理解していた。
佳那の独特なマイペースさとは違い、綾乃のノリの良さは、場の空気を明るくする力がある。それでいて、何も考えていないわけではなく、はっきりさせておかなけれならないことは、相手が樋春であろうと臆せずなんでも発言する。
そんな綾乃がいたからこそ、知ることができた情報も多くあり、ありがたいとすら思っていた。
こうして、わざわざ鍛錬場へ来てくれたのも、困っている博也を助けようとしてくれているのだろうし、それ自体はとてもありがたいのだが――
「意地張ってないで、悩みを打ち明けてくれたまえ~? 私って意外と頼りになるんだぞ?」
「……」
今は、このノリが壮絶に鬱陶しかった。
博也が黙っていると、綾乃は長い髪の毛をひと房つかみ、胸の前でくるくると回転させながら、さらに続ける。
「無理に協力させろ、なんて、そんなつもりはないよ? 特訓の邪魔なら消えるよ。ただ、ちょっと聞いてみたいことがあったんだよね」
内心、「だったら、喋ってないでさっさと帰れ」と思うが、さすがに黙って置く。
代わりに、「聞いてみたいこと?」と問い返す。




