第三章ー5
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樋春が目標に掲げた『生き残ること』。
この目標を達成するため、しなくてはならないことの一つに、彩粒子を上手く扱い、制御することが挙げられる。
選定式は、開始時だけは自身のクラスにいなくてはならないというルールがある。つまり、樋春に守ってもらえるとしても、合流できるまでは自力で生き残らなければならないのだ。
この辺のルールに関しては一部例外もあるそうだが、樋春に「まだ教える段階ではないから」と詳しいルールを教えてもらえていない。
「赤、ってなんだよ……」
鍛錬場の隅っこで、博也がぼやく。
その手には一枚の紙がある。
「そこに書いてあるのは全部試したの?」
「試したけど、全部違うみたいなんだよな」
黒江と博也は再び、鍛錬場へ戻ってきていた。
博也の誘いは、能力を発現させる手伝いをしてくれ、というものだった。
一年生だけでの特訓を許さない樋春も、能力自体が発現していないのでは話にならないと、許可を出してくれた。
黒江たち以外に鍛錬場を使用する者はおらず、二人は座り込んで考えを巡らせる。
「火、血、イチゴ、りんご、トマト、消防車、パトカー、赤信号、赤ペン、戦隊モノヒーロー、タコ、唐辛子、バラ……他になんかあるか?」
博也が紙に書いてあるものを読み上げる。
彩粒子の能力が色に関係すると分かったため、赤から連想されるものを書きだし、博也はその全てを試している。
「イメージ不足って可能性はない?」
「それぞれ、少なくとも十回以上は試してるぞ」
「じゃあ……あとは直感でやるしかないんじゃない?」
「他人事だな」
「いや、真面目な話だよ。俺や佳那の能力見れば分かるでしょ?」
「まあ、な」
博也は憮然とした表情で頷く。
佳那の彩粒子の色は白だが、白色の物ではなく、『飛行』という能力を発現している。連想されるとすれば、空に浮かぶ雲だろう。
黒江の彩粒子の色は漆黒だが、発現した能力は『身体強化』だ。黒色とはなんの関係もない。強いて言えば、『何色にも染まらない色であるため、彩粒子がもともと持っている能力を上げました』という感じなのだろうか。
「座ってても仕方ねーし、いろいろ試してみるわ」
博也は立ち上がり、能力を発現させようと試みる。
珍妙なポーズを取ったり、聞いているこっちが笑ってしまいそうな台詞を口走っているが、本人はいたって真面目である。
「……本当に、なんだろうな」
博也が焦っていることは、黒江にも十分、伝わっていた。
選定式まで残り一週間を切って、上手く扱うどころか、自分の能力すらまだ分からないのだ。
恐怖だろう。
――真面目すぎるのかもしれないな。
博也が能力を発現できない理由を、黒江はそう推測する。
博也は起こった事象に対して、真正面から受け止め、反応する節がある。「そのくらい気にしなくても」と思うことに対しても、馬鹿正直に受け止めてしまうのだ。
マイペースな女子二人に対して、一週間経ってもピリピリしているのが良い例だ。
きっと、博也は『赤から連想されるモノ』と聞いて、正直に、『赤が入っていないと駄目』と思っているのだろう。間違ってはいないのだが、『色から連想されるモノ』だ。
気付かないうちに能力を発現させていた黒江が言うのもなんだが、博也が持っている紙の中に、既に正解があるような気さえしてくる。
上手く、イメージできていないのではないだろうか。
「博也、例えばだけど、消防車だったら水を出せるし、タコだったらスミを吐くでしょ? 赤いモノから、さらに連想されることをイメージしてみたら?」
「おお、なるほど。やってみる」
友人として、力になりたいと思う。
一緒に生き残りたいと思う。
ただ、こればかりは、本人の想像力次第な気がした。




