第三章ー4
「それでなんだがな」
一年生チームが通信機の操作を一通り確認し終わった頃を見計らい。
樋春がコホンとわざとらしく咳をする。
「今、君らには戦闘技術を教えているが、まだ完璧ではない。それは君たち自身が一番理解しているはずだ」
四人ともが頷く。
綾乃と佳那の二人は男子二名に比べれば、かなり安定して能力を使えているが、それもまだ特訓一週間のレベルだ。
黒江と博也に至っては、能力を扱う段階で躓いている。
「それを踏まえて、次の選定式での目標を発表したいと思う」
樋春はそこで間を置き、一人一人、視線を合わせる。
そしてギラリと目を光らせ、
「目標は、『生き残ること』。それ以外は何も考えるな!」
そう宣言した。
「君らは既に選定式を生き残った経験があり、さらに、あたしという人間に鍛えられている。他の一年生たちよりも、上手く立ち回れるだろうし、相手校の生徒と出会っても、きちんと戦えるだろう」
「そうでしょうね。日々、強くなってる実感がありますよ」
綾乃が同意の言葉を述べる。
黒江も異論はない。
選定式に関しては、まず、『ルールを知っている』だけで他の生徒より優位に立てる。
前回、開始と同時に佳那が席を離れたように、相手校の標的となり得る生徒たちが残っている中で、自分たちは逃げられるのだ。
良心が痛まないわけではない。
同級生たちを囮に使うような形になる。
できることなら、全生徒に選定式のこと説明し、一人も死なないように立ち回りたいところだ。殺される数が減れば、結果、学校値が上がることも考えられる。
しかし、それは不可能に近い。
転移してくるタイミングはばらばらで、一括で説明できない上、相手校の生徒が自分たちを殺しに攻めて来る、なんて話、昨日今日会ったばかりの人間に言われても誰も信じないだろう。
樋春に相談するまでもなく、理解できていた。
それに、信じてもらえたとして、生き残れるかどうかは別問題だ。
選定式について知っていたとしても、自身の能力を上手く扱えなかったり、戦闘技術に差があれば、殺されるのがオチだ。
その点において、黒江たちは他の一年生たちよりも、何歩も先をいっている。
だからこそ、次に続いた樋春の言葉は黒江の心に突き刺さった。
「絶対に、気を緩めるなよ」
これまで樋春と接してきた中で、一番真剣な声音だった。
「あたしはこれまで、何度も『まずは生き残ること』と話しているが、それがどれほど難しいか、君たちにはまだ分からないだろう。特に、自分たちはできるかもしれない、ちゃんと戦える、なんて、下手に自信を持った時は本当に危ない。必ず、心のどこかに油断が生まれているからな。今、綾乃さんが『そうでしょうね』と答えたが、それじゃあ駄目なんだよ。今一度、気を引き締めて欲しい。いいな」
一年生たちはそれぞれ、真剣な眼差しを返す。
まずは生き残ること。
それは、初めて樋春に会った日にも言われた言葉だ。
身に染みて理解できている、つもりだ。
あれほどの惨状を、地獄を、この目で見ているのだ。
人間という生物がどれほど容易く死んでしまうのか、この目で、脳で、肌で、感じている。
だがそれでも、足りないのだろう。
樋春の言葉には、そう思わせるほどの重みがあった。
樋春が一年生の何月に転移したのかは分からないが、どんなに少なくても、二十四回以上、選定式を生き抜いている計算になる。
どれほどの同級生を失ってきたのか。
想像すらできなかった。
「今日のところはこれで解散とする。皆、ゆっくり休んで、明日に備えるように!」
樋春の号令を受け、一年生は席を立つ。
「……博也?」
「ん? ああ」
皆が身支度を開始する中、博也の動きが鈍かった。
手に持った改造制服を握りしめたまま、紙袋に戻すでもなく、ぼんやりとしていた。
暗い表情で、なにか、思い詰めているようだった。
「黒江、ちょっとこの後、付き合ってくれないか?」
「分かった」
なんの用か、言われなくても察することができた。




