第三章ー1
国立転移第三高等学校には、二つの体育館の他に、鍛錬場と呼ばれる場所がある。
西校舎と南校舎の角から、西方向へ続く通路を歩くと、そこが第一体育館となっている。その第一体育館の南側。ステージとは逆側に、大きな鉄扉がある。
鉄扉を開くと、中はコンクリートに囲まれた正方形の大部屋が現れる。五十メートル四方のその場所は、何時でも使用することが許可されている場所で、選定式を正しく理解している者たちにとって、大切な鍛錬場となっている。
「黒江君! まだまだ見極めが甘いよ!」
樋春に付きっ切りで指導をしてもらって一週間。
一年生チームはある程度、『戦うこと』に慣れて来ていた。
「綾乃さんは雑にならない! 相手をきちんと追い詰めてとどめを刺せるよう、考えて攻撃して!」
「はい!」
黒江と綾乃は危険がないよう、樋春に監督してもらいつつ、スパーリングを行っていた。
「見極めって言ってもっ!」
黒江は四方八方から飛んでくる鉄球を避ける。
樋春は簡単に「見極めろ」と言うが、簡単なことじゃない。
綾乃の能力、『灰球』は鉄球を出現させ、操ることができる能力なのだが、その数と速度が尋常じゃない。
出現させる鉄球の大きさを自由に変えられるのが厄介極まりない。現在、黒江を襲ってきている鉄球は五センチほどの小さな球だ。
銃弾よりはやや遅いかもしれないが、重さは銃弾以上。彩粒子で身体強化されているとはいえ、当たれば無傷では済まない。
そんな鉄球が、二十個近くも黒江に向かって飛んできているのだ。
なるべく小さい動作で、見極めてから避けろと指示をされているが、そんな余裕はほとんどない。
「やべっ!?」
足元を狙ってきた鉄球を避けるため、黒江は反復横跳びの要領で軽く横へステップを踏んだ。
が、跳び過ぎた。
思った以上に力が入ってしまったのか、軽くステップを踏んだはずが、三メートルを超える大ジャンプになってしまう。
黒江はバランスを崩し、床に倒れ込んでしまう。
その隙を狙って、大量の鉄球が襲い掛かって来る。
「そこまで!」
樋春がストップをかけ、目の前で鉄球が止まる。
冷や汗が出た。
灰色の彩粒子とともに鉄球が消えていくのを横目に、黒江は立ち上がり、樋春のもとへ行く。
「黒江君、まだ慣れないかい?」
「すみません」
「謝る必要はないんだけどね。しかし、どうしたものか」
樋春は顎に手をやり、考え込む。
黒江が力の制御を上手くできていないのは、理由がある。
彩粒子による身体強化×能力による身体強化
という状態であるからだ。




